コロムビア製放送局型第123号受信機(後期型)

コロムビア123号外観

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 性能・品質が良くて廉価を目指し、そして戦争が避けられなくなって来ると、資材を最小限に抑える為に、トランス・レス方式を採用して開発された123号ラジオは、大変優秀な性能のラジオでした。しかし本当に戦争が始まってしまうと、更なる資材の節約と合理化が求められ、マイナーチェンジが行われました。内部は回路はそのままで、構造面で省略出来る物は徹底的に省略・簡素化が図られ、それに合わせてキャビネットのデザインも、少しだけ変更されました。これが123号の「戦時許容型」(後期型)と言われるタイプです。
 
ここにご紹介する物は、(株)日本蓄音器商会(ブランド名コロムビア)製の物で、当時のラジオの中ではコロムビア製は少ない方です。このラジオは平成16年に入手して修復しましたので、修復前の写真は2枚しか残っていません。
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入手時
01:入手時のキャビネット外観                     
 小さい写真しか残っていませんので、拡大していて鮮明さを欠く写真ですみません。入手時のキャビネットで、既に修復の為に中身は取り出し、スピーカーも取り外しています。左側黒帯の上部手前部分が割れて陥没、右側黒帯も陥没はしていませんが、板材が割れてしまってます。更に上面は濡れた湯呑みでも置いたのか、塗装が部分的に剥げいます。

修復後外観
02:修復後の外観
 
修復が終った現在使用中の姿です。上の様にかなり傷んだ状態でしたので、まず塗装を全て剥がしました。次に、陥没していた部分には裏側から厚紙を貼り、木工パテを詰めて整形し、砥の粉とニスで塗り直しをしました。陥没箇所は全く判らなくなっています。
3種類の123号  
03:三種類の123号
 上から初期型、後期型、末期型です。この「初期・後期・末期」と言うのは、ここでの便宜的な呼び方で、正式な呼称ではありません。初期型は「正規型」、後期型は「臨時許容型」と言うのが、正式な呼称の様ですが、末期型については「角型」と言われてた様です。
 初期型→後期型では、内部は大幅に合理化・簡素化されましたが、デザイン的には、つまみの位置が内部に合わせて少し変更された程度です。
 後期型→末期型では、内部の変更はなく、キャビネットのデザインが製造し易い形になりました。相違点をまとめると下記の様になります。


初期型
後期型
末期型
キャビネット
上辺曲面形
上辺曲面形
直線的角形
つまみの配置
密集形三角形
解離形三角形
解離形三角形
同調つまみ位置
ダイヤル窓下
ダイヤル窓部分
ダイヤル窓部分
ダイヤル減速機構
円盤式反転形  
同軸式正転形 ※
同軸式正転形 ※
真空管シールド
筒形
帽子形
帽子形
コイルシールド
あり
なし 
なし 
検波コイル位置
シャーシ上
シャーシ下
シャーシ下
:減速機構が無く直結の製品もあるらしい
:2つのコイルをシャーシ上下に分けて配置すると、シャーシ自体で遮断されるのでシールドは不要

 製造数は後期型が一番多く、前期がそれに次ぎ、太平洋戦争の戦況悪化で末期型は僅かです。
 写真の製品は、前期型がタイガー電機(コンサートン)製、
後期型がこの日本蓄音器商会(コロムビア)製、末期型が早川電機(シャープ)製ですが、統一規格ですので、同じ時期では各社同じ物を製造しています。
 この様に積み上げているのは、写真を撮る為だけで、普段から積み上げている訳ではありません。

当初シャーシ裏
04:当初のシャーシ裏
 入手当初の内部の様子で、これも小さいものを拡大した不鮮明な写真です。抵抗器やコンデンサーは割と無雑作な配置で配線されています。右側には紙箱のケミコンがあります。これは本来はシャーシの上にもう一つある筈なのですが、そっちは過去の修理の際に交換撤去された様です。

シャーシ裏
05:修復後のシャーシ裏
 
この頃は、「元と同じ」と言う事は考えて無かったので、部品の配置や配線の引き回しは、全く新たな「やり易い」方法でやりました。一つしか残ってなかった紙箱ケミコンは、シャーシ上に移しました。部品は新しい現代の物や昭和50年代の手持ち品を、外形を気にせずそのまま使ってます。勿論回路は123号の回路通りです。
シャーシ斜め後ろ
06:斜め後ろから見たシャーシ
 斜め後ろから見た、現在のシャーシです。タイガー製初期型では大きなシールドケースが所狭しと並んでいましたが、金属節約の為、コイルは位置を工夫し、真空管は帽子型キャップに変更され、シールドケースは姿を消し、ずいぶん風通しの良いスカスカな印象になりました。シャープ製の末期型のシャーシも全く同じ配置です。

123号シャーシ(球付き)
07:ダイヤル盤
 ダイヤル盤は100分割式表示で、その下にタイガーの初期型には無かった「放送局型第123号受信機」と言う機種名が入りました。逆に「同調」と言う文字は無くなりましたが、これはダイヤルは同調(チューニング)の為ですから、余りにも当り前なので省略したのでしょう。目盛のデザインは、コロムビア、タイガー、シャープそれぞれ少しずつ違っています。

ダイヤル減速機構
08:ダイヤルの減速機構
 タイガーでは小円板で大円板を回す、伝達式の反転型減速機構でしたが、このコロムビア機では、薄い円盤状の同軸型減速機構が取り付けられています。たぶん内部で小球が回転を伝える仕掛けだと思われます。これは指針を見ながら軸を直接回すと、回転は4分の1に減速されて伝わります。末期型のシャープ製では、更にこれがバリコン軸に内蔵されますが、どちらも見た目と操作感が一致した、極めて使い勝手の良いシステムです。
 この後の時代になると、ダイヤル表示や減速機構は、糸を使った横型ダイヤルが主流になっていきます。

スピーカー
09:スピーカー
 
スピーカーは当然マグネチック・スピーカーで、「大衆号」と言う赤いプレートの付いた、鉄製フレームの製品が使われています。コーン紙には同心円状のヒダも付いてて、ちょっと高級な物の様です。オリジナルは紙製フレームのスピーカーだった筈ですので、このスピーカーは修理の際に交換された物だと推測されます。
 黄色い円形の証紙は、コピーを貼った物で、本物ではありません。

つまみ
10:操作つまみとダイヤル窓
 同調つまみがダイヤル同軸なったので、位置が上に移動して、3つのつまみの位置が広がりました。このラジオでは「再生」「同調」「音量」の文字が、比較的良く残っています。
 同調つまみがダイヤル同軸になったので、窓に凸状に木の部分が飛び出すデザインになり、そのままでは窓の面積が減るので、初期型に比べてダイヤル窓は大きくなりました。
 

銘板
11:銘板
 銘板は紙製で、一部が破れた状態です。製造年月日は読めません。「コロムビア」のロゴは現在と同じ書体です。

123号回路図
12:回路図
 この123号修復の為に書き起した手書き回路図です。倍電圧整流の電源部以外は、戦後の「高一(高周波一段増幅)ラジオ」と全く同じです。

 簡単に説明しますと、左端のコイルとバリコンで同調した後、12Y-V1(ジュウニワイブイワン)で高周波増幅します。12Y-V1は可変増幅率管ですので、カソード電圧をVRで変えてゲイン調整をし、これが事実上の音量調整となります。音量調整をこんな前の方で行うのは、過大な入力で歪むのを防ぐ為です。
 その後もう一度コイルとバリコンの同調回路を経て、12Y-R1(ジュウニワイアールワン)でグリッド再生検波を行います。プレートからコイル(P)に戻る回路が再生回路で、検波後にも幾分残っている高周波分をコイルに戻し、もう一度12Y-R1を通す「正帰還」で、これがあると非常に感度が高くなります。
 但しグリッド再生検波は音質が犠牲になり、現代の高音質に慣れた耳には、音楽番組を聴く場合不満足感を感じますので、このラジオを日常常用機とする為に、もう少し音質のいいプレート再生検波に変更しています。しかしスピーカーが音の悪いマグネチック・スピーカーですので、改善度は少しです。それでもポータブルラジオ等に比べれば、ずっと深みのある音です。プレート検波とグリッド検波の回路上での違いは僅かですので、短時間の配線変更で元に戻せる様に、部品は残してあります。

 検波され取り出された音声信号は12Z-P1(ジュウニゼットピーワン)で電力増幅され、スピーカーを鳴らします。
電源整流は24Z-K2(ニジュウヨンゼットケーツー)による倍電圧整流で、コンデンサーを2階建てにして、トランスを使わずに200V近いB電圧を得ています。
 真空管のヒーター電圧は、型番が示す様に12V、12V、12V、24Vで、これを全部直列に繋いで60V、残りの40Vの内の37Vを安定抵抗管B-37が受け持ち、後の3Vはパイロットランプで、これで全部で丁度100Vになります。ヒーターの接続順序は、後期型では配線材料と手間の節約の為、真空管に無理が掛る順番に変更されましたが、ここでは長期間安定的に使用する為、図の通り初期型と同じにしてあります。
 安定抵抗管は、見た目には単なる「大きくてうす暗い電球」ですが、ヒーター電圧の差の37Vを受け持つ以外に、電源電圧が変動しても、電流を一定にする事が出来る「定電流素子」でもあります。
 尚、回路図と実物では、若干の違いがあります。

コロムビア123号の動画


13:放送を受信中のコロムビア123号の動画です。(You tube)

行進曲
(スーザ作曲「士官候補生」)
Jポップス
選局操作の様子

 
 以上でこのコロムビア製「放送局型第123號受信機」のご紹介は終りです。
 資材を贅沢に使った「初期型」に比べると、この「後期型」は随分節約されて合理的になりました。勿論性能は全く落ちてはいません。そしてこの後期型の配置や部品の使い方は、そのまま戦後のラジオの作り方に踏襲されました。
 このラジオは平成31年の時点で、修復後15年になりますが、その間日常用のラジオとして、ニュースや放送を聞くのに使っていて、真空管の寿命切れはありましたが、故障はありません。123号は部品の信頼性が低かった当時は、すぐ故障するラジオと言われたそうですが、現代の信頼性の高い部品で修復したこのラジオは、今後も調子良く使用出来そうです。
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(管理人「うつりぎ ゆき」)

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