ナショナルラジオ「R-48」

外観正面

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 大正14年のラジオ放送開始から僅か10年程で、各メーカーは早くも試行錯誤時代を終えて、安定した性能と日本の民家にマッチしたデザインのラジオを次々と発売していました。その中にあって昭和8年に松下から発売されたR-48は、キャビネットのデザインと内部を少しずつマイナーチェンジしながら何年もの間販売され続け、同社のベストセラーとなりました。ここでご紹介するのは、昭和12年発売の最終モデルです。

 R-48は当時一般的だった、真空管を4本使った「4球ラジオ」ですが、開発・実用化されたばかりの高性能な真空管の、UY-24B(高周波用四極管)2本と、UY-47B(五極出力管)を惜し気もなく採用した高級な機種で、キャビネットもそれに見合った、質の良い大きな縦型キャビネットです。

 尚このラジオは、10年以上前にゆき(私)が初めて修復したラジオで、当時(修復前)の写真は残っていませんし、有名機種の割には、詳しい回路図や資料も乏しく、他の123号の様な完全な修復ではありません。

 では詳しくご紹介します。写真はクリックすると大きくなります。


 
外観斜め
01:R-48 外観                     
 直線的な縦型デザインで、大きくスペースを取ったスピーカーグリルと、中央部と左右周辺部で木目を替えた、凝った木工仕上げが特徴です。
 塗装は上部と下部が濃い茶色、左右とそれに続く側面が茶色、真ん中の木目替りの部分が少し薄めの茶色の3色塗り分けですが、これは実は入手後に現状に合わせて塗り直したもので、その際に左右と中央部が少し色が違う様に思えたので、塗り分けたのですが、もしかしたら木の材質の違いによる色合いの変化で、本来は上下・真ん中の2色なのかも知れません。古い元の塗装を剥がさずに上から塗り重ねたので、厚塗りな感じになっています。
 3つ並んだ操作つまみはオリジナルではなく、後の時代の似合わないプラスチック製が付いていましたので、現在入手出来る中で少しは古典ラジオに似合う物に交換しました。

 スピーカー部分の布(サランネット)は張り替えていますが、いつもの金色の織模様入りの布ではありません。右上の丸いのは、NHKの金色の証紙(○に「放」の字)です。

後ろから
02:内部
 4本の真空管が、それぞれ個室状に仕切られた頑丈なシールド板で分けられて、整然と並んでいます。全ては黒く塗られていて、堂々とした高級感のあるシャーシーです。
 使用されている真空管は、本来は左からUY-24B(ニーヨンビー:検波管)、KX-12B(イチニビー:電源整流管)、UY-47B(ヨンナナビー:出力管)、UY-24B(高周波増幅管)ですが、入手時は24Bが2本共ソケットを替えて57(ゴーナナ)に、12Bが80HK(ハチマルエイチケー)に、47Bが3Y-P1(サンワイピーワン)に、それぞれ交換されていました。これは全て戦後の交換ですので、このラジオが戦後も使われていた事が判ります。現在では交換されたソケットは元に戻して、左から57S(ゴーナナエス)、80HK、3Y-P1、57Sを使用しています。本来の24B、47Bも持っていますし、脚の接続は同じで、そのまま原形管に挿し戻せますが、性能的に57Sや3Y-P1の方がいいので、それを使っています。
 
UY-24Bは、それまでの三極管(カソード、グリッド、プレート)にもう一つ電極(第2グリッド)を加えた四極管で、高性能な多極管の第一期生ですが、間もなく「ダイナトロン特性」と言う不安定要素が見つかり、その解消の為に更にもう一つ電極(第3グリッド)を追加した五極管が開発されたので、短期間で使われなくなりました。57Sは脚の接続を工夫して、UY-24Bからそのまま差し換えられる様に作られた、上位互換品です。3Y-P1もUY-47Bの上位互換品(こっちは上位互換と言うよりは、代替可能品ですが)です。
 背面下部には端子が沢山並んでます。これは左からピックアップ(レコードプレーヤー用外部入力)+、同−、アース、アンテナ(分離)、アンテナ(中間)、アンテナ(感度)で、アンテナは感度や分離(周波数の近い局の混信が少ない)のどれを優先するかで、聞き易い物を選んで繋ぎます。写真ではよく見えませんが、その右(水色のコード2本が繋がっている所)がスピーカーへの出力端子です。
 スピーカーの周囲が黄色いプラスチック板の様に見えますが、これは光線の具合で、普通の白っぽいシナベニア板です。

シールド板アップ
03:内部アップ
 衝立て状シールド板の奥は、左右の黒い箱状の物が、左が検波コイルのシールドケース、右が電源トランスと電源チョーク(断線)、真ん中が2連バリコンです。この写真では見えませんが、右端の真空管の背中のシールド板の下の方にヒューズがあります。

シャーシ前から
04:シャーシ前から
 真ん中の大型バリコンを、左右のトランスやコイルのケースが挟んでいます。どれもどっしりと厚い鉄で重厚に作られています。キャビネットも分厚い木材で作られていますので、R-48は、重さが何と10kgもあり、極めて重いラジオです。同じく厚い木材の「ヨクナル号」でさえ4.5kg位、トランスも無く木材も薄い「123号」は3.8kg位ですので、R-48がいかに重いかが解ります。
 下の3本のつまみの軸は、左が電源スイッチ兼音量、真ん中が同調、右が再生調整(感度)です。

ダイヤル
05:ダイヤル
 初期のR-48は昭和初期の他のラジオと同様、真ん中部分のみ見える小さな窓タイプのダイヤルでしたが、マイナーチェンジの度にダイヤルは流行りのスタイルに変更され、最終期のこのR-48では、飛行機の計器盤をイメージした大きな全周表示の「エアプレーン・ダイヤル」になってます。飛行機も大発展だったこの時代に、「エアプレーン・ダイヤル」は人気のデザインだった様です。
 半透明のプラスチック製で、裏側から豆電球2灯で照らす透過式である点は、他の機種と同じですが、このダイヤル盤では窓の部分までが一体化されています。表示は100分割表示で、上半分も下半分も同じ目盛りです。回転方向は今のラジオと同じ右回りで、受信周波数は現在より大分狭い550KHz〜1400KHzです。
 減速機構は「ヨクナル号」や「初期型123号」と同じく、プラスチック円盤式ですが、操作軸と
プラスチック円盤の間にもう一つ中間軸を入れて、回転方向が逆にならない様になってます。減速比は操作つまみ10回転で目盛りが180度動く20:1で、いくらつまみを回しても、なかなか針が進まない程の、かなり大きな減速比になってます。
シャーシ内
06:シャーシ内部
 内部の様子です。このR-48は何度も修理を重ねた形跡があり、新旧様々な部品が使われていました。その為どれが元の配線でどれが修理の際の変更なのか、判らなくなっている状態でした。しかも次の欄で回路図をご紹介しますが、これが大変見難くほとんど判読も出来ず、しかも元々その回路図とも異なっていたらしい点もあります。従って修復は場当たり的なものになっていますし、配線や配置もごちゃごちゃです。
尚、このラジオは入手した時点でも微かに受信出来る状態でした。
 真ん中やや右の新しいトランスは、元の物が切れていたので、新たに購入した電源チョークです。そのすぐ左下のアルミの円筒形の物は電源のコンデンサーで、昭和30年前後の物だと思います。その左には、当時のままの黄色いペーパーコンデンサーも残っています。赤、黄、青、白の線は、配線し直した線ですが、焦茶色の元からの線も結構残っています。いずれは123号の様に、元の回路に戻した上で、完全にやり直した方が良いと思います。左上の銅色に光っているのがアンテナコイルで、対称位置の右上の黒いコイルは、検波管の負荷チョークコイルです。

回路
07:回路図(当時のスタイルの表記)
 回路図は検波コイルのシールドケースの上に、プレートの形で留められています。僅か6cm×3cm程度の小さな物で、金属に印刷されている事もあって、不鮮明で見辛いです。しかも記号も表記方法も現代と異なっている書き方の為、とても判り難い回路図です。
 この時期の松下のラジオの特徴として、電源チョークをマイナス側に入れて、そこでの電圧差を利用して、出力管を固定バイアスで動作させると言う点があります。このR-48でも、部品の特徴と配線からは、そうであったと推測されますが、この回路図ではそうなっていません。

手書き回付
08:回路図(現代式表記)
 上述の当時のスタイルの回路図では、どうにも見難く判り難いので、現代式に書き直しました。判読し難い箇所や「ここはこうでないとおかしいだろう・・」と言う箇所もあるので、24B使用の高一の一般的な回路を加味して書きました。抵抗器やコンデンサーの定数も、一般的なものです。
 簡単にご説明しますと、先ずシャープカットオフ特性の四極管24Bで高周波増幅をし、その後2本目の24Bでグリッド再生検波を行い、音声信号を取り出します。この音声信号は効率の良いチョーク結合で次段に送られ、音量調整のボリウムを経て、直熱五極出力管47Bで電力増幅され、マグネチックスピーカーを鳴らします。電源整流は12Bですが、これは早々に改良型の12Fに変更されたと思われます。
 高周波増幅付きラジオの場合、高周波増幅管のカソード電圧を変えて、音量調整を行うのが普通ですが、その場合初段をUY-35Bの様な、リモートカットオフ特性の球を使わなくてはなりません。35Bは余り一般的ではなく、ここでは音量調節は出力管47Bの前に置かれています。
 上述の様にR-48の当初の設計では、電源チョークをマイナス側に入れて、そこでの電圧差を利用して、出力管を固定バイアスで動作させていたと思われます。しかしその場合、直前に入れた音量調整ボリウムとの関係で、コンデンサーを増やす必要があります。更に、松下の他のラジオが、音量調整を持たず、アンテナ入力切り替えで済ましている点を考えると、ボリウム自体が無かった可能性もあります。赤く示した部分が、その固定バイアスの推測回路ですが、上述のプレートの回路図がそうなっていない点を考えると、このラジオが製造時にどうだったかは、何とも言えません。

スピーカー
09:スピーカー
 スピーカーはマグネチック・スピーカーですが、通常の20cmの物より一回り大きく、24cmの直径です。マグネット部分には「National」のロゴの入ったカバーが付けられ、その中には振動片の微調整用のネジが付いている高級品です。
 R-48号ラジオは、この大きな直径のスピーカーと重くて大きなキャビネットのおかげで、
マグネチック・スピーカーのラジオとしては、豊かな低音と軟らかな音質で、なかなか聴き易いラジオです。
銘板
10:銘板
 銘板はキャビネットの後ろの上部に付いています。これには「ナショナル受信機」と記されていて、全体が松下で製造された「純正品」です。尚「ナショナルシャーシ」と記されたR-48も見掛けられますが、その場合は中身だけが松下製で、キャビネットやスピーカーは他社製を使って、ラジオ販売店や一般ユーザーが安く仕上げた製品と言う事になります。
 
「ナショナル受信機」の下には(マツダ球付)の記載があります。これは真空管のトップメーカーのマツダ製真空管を使っていると言う事です。当時はこの松下を始めラジオメーカーの殆どは、真空管は製造しておらず、真空管メーカーからの仕入品を使ってました。松下が真空管を製造するのは戦後になってからです。マツダは現在の東芝で、「マツダ」は当時の電球や真空管分野のブランド名です。自動車会社のマツダとは関係ありません。マツダの真空管は、値段は少々高めでしたが、品質も生産量も他社を圧倒していました。
 「○-48」と言う型番は、他社でも、例えば山中電機のテレビアンM-48の様に、高周波一段増幅ラジオで見受けられます。48と言う数字には、「24B2本」と言う意味が込められているのかも知れません。
動画
Jポップス
ニュース

11:放送を受信中のR-48の動画です。(You tube)

 以上でこのナショナルラジオR-48のご紹介は終りです。ご質問がございましたら、下記本サイト「雪乃町公園」の掲示板にお書き込み下さい。

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