11号受信機の正式名称は「放送局型第十一號受信機」と言います。 「放送局型」とは、性能・品質が良くて廉価なラジオを普及させる為に、放送協会(NHK)が定めた方式のラジオ受信機で、各メーカーが同一の製品を製造する点が特徴で、昭和13年に制定された1号(3球式)と3号(4球式)から始まります。しかし現実的ではない設計だった1号と3号の生産は極僅かで、試作の域を出ませんでした。そこで昭和15年に、設計を現実的に改めた3球式が改めて発売されました。これが今回修復した「11号」です。 当時最も普及していたラジオは、性能の低い三極真空管を4本使った「並四ラジオ」でした。11号は、高性能な五極真空管を使う事で、1本少ない3本でも、同等レベルの感度を確保しようとしました。 真空管を3本使うと言っても、コンセントからの交流を、電子回路の電源である直流に変換(整流)するのに、1本が必要ですので、そうすると、本体の回路部分に使えるのは、僅か2本だけになります。11号は、この2本の内1本を、電波から音声を取り出す検波に使い、それを増幅作用もあって感度が一番高い「グリッド再生検波」方式を採用し、残り1本をスピーカーを鳴らす「電力増幅」に使ったもので、ペントード(5極管)をメインに使用した3球ラジオなので「三ペン」(後のいわゆる「並三ラジオ」)と呼ばれたラジオです。併せて電源トランスを、構造の簡単な単巻トランスにする事で、資材とコストの削減も目指しました。 こうして発売された11号は、昭和19年迄に172,000台が製造されました。しかし、所詮3球式では最小限の性能しかなく、放送局に近い都市部でしか使い物にならず、より高性能で全国で通用する、高周波増幅付き4球式の123号に、取って代わられる事になります。 今回修復した11号は、早川金属工業(株)製で、製造年月日は判りませんが、使われている部品の特徴から、11号の製造が開始された昭和15年よりは、もう少し後の、昭和16年頃の製造だと思われます。早川金属工業とは、シャープの元の社名です。シャープの社名は、早川金属工業→早川電機→シャープと変わっていきます。 では詳しくご紹介します。ピンク色の部分は修復前、クリーム色の部分は修復中、水色の部分が修復後です。 写真はクリックすると大きくなります。 |
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4-01:ダイヤル ダイヤル表示板は黄色っぽいプラスチック板で、裏側から豆電球で照らす透過式です。 目盛は現代の周波数表示ではなく、百分率表示のシンプルなもので、下に小さく「同調」と書かれています。 回転方向は現代と同じ右回りですが、この時代にはまだ左回りの製品も混在していました。 回転は減速機構の無いバリコン軸直結ですので、同調操作はちょっと慎重を要します。 |
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4-02:再生つまみと文字 3つのつまみは、123号と同じデザインの物が使われていますが、3つとも微妙に色が異なるので、もしかしたら交換された物なのかも知れません。単巻トランス使用の回路の宿命で、つまみ軸に電気が来ている可能性がありますので、つまみの固定はイモネジではなく、板バネでの押し付けで固定されています。 元からの「再生」の文字は、塗り直しで消えてしまいましたので、今回は文字のゴム印を作り、金色スプレーの塗料を使って押印しましたが、かなり上手く出来たと思います。 |
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4-03:電源スイッチ 電源スイッチは、この頃のラジオの慣例で、左側面に付いていて回転式です。標準10号や123号の回転式が、90度毎にONとOFFが繰り返すタイプなのと異なり、このスイッチはもう少し操作感のいい、前方向(右回し)でON、後ろ方向(左回し)でOFFの、2ポジション型です。 つまみは同調や再生つまみと同じ物が使われていますが、丸いくり抜きとの隙間が少なく、ちょっとつまみ難いです。もしかしたら、元はもう少し細身の別のつまみだったのかも知れません。 奥には緑色の表示板(紙製)があり、かろうじて「電源スヰッチ」と書かれているのが読めますが、傷みや汚れが激しく、復元や復刻する事は出来ませんでした。 |
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4-04:電源スイッチ自体のアップ 電源スイッチユニットは、鉄枠でベークライト板を挟んで作られている、当時としてはしっかりした作りで、スプリングを使った、操作感のいい物です。 接点が腐食して使えませんでしたが、分解掃除をして使える様になりました。スプリングも多少錆びてはいますが、元からの物をそのまま使っています。 取り付けられているコンデンサーは、元は無かった物で、ON/OFF時(特にOFF時)の火花による、「バチッ!」と言うノイズを軽減させる為に、追加した物です。 スイッチへのコードは、現代のビニール線ですが、ベージュ色のチューブを被せて、昔の布巻線っぽくしてあります。スピーカーへのコードも同じ事をしてあります。 |
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4-05:スピーカーの飾り留めネジとサランネット スピーカーの留めネジの頭は、キャビネットの前面に露出しているので、普通のネジではなく、頭が模様になった「飾りネジ」が使われています。元からの飾りネジは4本中2本しか残っておらず、しかも汚く変色した上に曲っていましたので、新しい物に取り替えました。 この飾りネジの新品の入手先は、なかなか見つかりませんでしたが、幸いにも在庫を持っているネジ専門店が見つかり、100本単位とちょっと多めでしたが、購入する事が出来ました。 上の文字表示とこの飾りネジは、小さな箇所ですが、今回の修復の大きなポイントです! スピーカーのサランネットは、元の鋸模様の布の洗濯も試みたのですが、洗っている途中でボロボロに崩壊してしまいました。従っていつもの様に、サランネット用の、織模様のある金襴布に張り替えましたが、この布も前回のタイガー123号で、まともな面積は使い尽してしまい、今回は端切れを真ん中の横桟の部分で継ぎ足して使っています。縁の黒塗の部分に金襴布の金色が映っていい感じになりました。 |
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4-06:パイロットランプ パイロットランプは、57と47Bのヒーター回路に入っていますので、2.5Vです。2.5Vの豆電球は300mAの物が、現在でも懐中電灯用として販売されています。これを使うとダイヤル板が大変明るくて、気持ちがいいのですが、懐中電灯用の豆球は寿命が大変短く、数十時間で切れてしまいます。そこでここでは123号用に取り寄せた3V130mAの物を使いました。2.5Vの物に比べると半分以下の明るさで、ダイヤル板は2.5V球だと「レモン色」ですが、3V球ですと「オレンジ色」です。 しかし消費電流が格段に少ないので、57と47Bのヒーターは、規定の電圧が確保され、ラジオの動作にとっては良い事です。 |
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4-07:ヒューズ 電源の片側がシャーシに直接落ちているので、ヒューズは正負両側に入っています。ホルダーは絶縁カバーがなく、少々危険です。容量は0.5A程度で十分です。 |
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4-08:アンテナ端子 アンテナ接続用端子は、左から空(長)、空(短)、地 と書かれています。「空」とは「空中線」の略で、アンテナの事で、「地」は「接地」の略で、アースの事です。アンテナは3〜4mのコードを部屋の高い所に張り巡らしますが、それが短い場合は、感度のいい(短)に繋ぎ、もっと長くてきちんとしたアンテナに繋ぐ時は、混信を避ける為(長)に繋ぎます。 アンテナを張らずに、水道管をアースにして、アースだけでも聞こえますが、その場合も「地」に繋ぐのではなくて、「空」に繋いだ方が良く聞こえます。電柱の電線→シャーシ→アンテナコイルアース側→同アンテナ側→空端子→(水道管)アース と流れて、コイルに電波が流れるからです。 |
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4-09:シャーシの足 電源の片側がシャーシに直接落ちていて、50%の確率で感電の可能性がありますので、シャーシを留めるネジも、直接シャーシに触れない様に、一旦樹脂製の足を取り付け、それにネジ留めをする様に工夫されています。但し、この足に合うネジは、「UNCユニファイ並目 #6-1"1/4」という、国内では余り使われていない、アメリカ規格のネジでした。その為、今回このネジを入手する為、叉もネジ店を色々探すハメになりました。 戦時中の製品でもある放送局型に、何で「敵国」の規格のネジを採用したのでしょうか? |
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4-10:感電に関する注意書き 回路図やすぐ一つ上の項でもご説明しています様に、このラジオは50%の確率(コンセントプラグの差し込む向きによって決ります)で、シャーシが活電状態となり、触ると感電の可能性があります。その為の注意書きが、シャーシに貼ってあります。尤もこの種の注意書きは、裏蓋に明記すべきで、後の123号の後期になると、そうされていますが、ここではシャーシ背面に、それなりに目立つ様に貼られています。 実は元から貼られていたものは、シャーシの錆で変色してしまい、写真に撮る事さえ不可能でした。この注意書きは、別のメーカーの123号の物で、シャープの物とは書体や文字レイアウトが、幾分違います。「シャーシ」もここでは「シャシー」になっています。 赤文字で表示するのは、当然ですが目立たせる為で、これは放送局型の決まりです。 |
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4-11:裏蓋 裏蓋は失われていましたので、ネットで11号の写真を見付け、その写真から放熱スリット穴の寸法を割り出して、ベニア板で作りました。放熱穴は大きいのでホコリが入らない様に、薄い布を張ってあります。 この裏蓋も、ニスで塗装してあります。 |
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4-12:銘板 裏蓋が失われていましたので、当然それに付いている銘板も無く、裏蓋と同様に、ネットの写真から作りました。しかしシャープ製の11号の銘板写真は見つからなかったので、標準10号の銘板と、白山電機製11号の銘板から、文字を拾って合成しました。従って文字が幾分不鮮明です。 プリントアウトした物を薄いアルミ板に貼って、上から透明保護塗料を塗って「それらしく」しました。 |
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4-13:電源プラグ 電源プラグとコードは、当時と同じ丸形プラグと袋打ちコードです。プラグは元からの物を使おうかと思いましたが、戦時中の品らしく、金具が粗悪な鉄製だったので、新しい物に交換しました。これは今でも入手可能です。コードは茶色い新しい袋打ちコードです。これはオークションで、プラグ付きで出品していた人から買った物で、茶色のコードは余り見掛けない物です。 |
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4-14:検査票 キャビネットの底面に貼ってある検査票ですが、印鑑がありません。わざわざ無押印の検査票を貼るとは思えないので、消えてしまったのかも知れません。 |
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4-15:オリジナルの配線図 上記の検査票の隣に貼ってある回路図です。真空管の書き方(回路記号)やレイアウトが、今の書き方と異なっていますので、少々見難いです。標準10号もこの表記方法でしたので、どうも当時のシャープは、この書き方を使っていた様です。 回路図の書き方は、戦後になってもメーカー毎に、それぞれ「個性」があった様です。 |
このラジオの動画 |
4-16:放送を受信中のシャープ「放送局型第11号受信機」の動画です。(You Tube) 音楽(チャイコフスキー:イタリア奇想曲の一部) トーク(バックに音楽) |
これでこのシャープ製放送局型11号のご紹介は終りです。 11号は最小限の性能と価格の、いわゆる「ローエンド」製品です。しかし「ローエンド」製品にありがちな、チャチな仕上がりではなく、寧ろ「最小限の回路でも、しっかりした製品にしよう」と言う感じす。 性能は、検波出力が大きい近隣地区の局は、十分過ぎる音量で鳴りますが、増幅段が無いので、離れた局になると音量が不足します。当時はNHK一局しかなく、地元NHKが聞こえれば問題なかったのでしょう。真空管式ラジオで問題になる「ブーン」「ムーン」と言うハム・ノイズも、割と少なめに治まってます。 因みに、旧式三極管4本で構成された「ヨクナル号」と、同一条件で比較してみると、感度や鳴り方にそれぞれの機種でのクセの違いはありますが、地元の近距離局の場合には、大体同じ程度の音量で鳴る様ですので、当初の「高性能球を使う事で、3球で4球並の性能」と言う目標は、一応実現出来ている様です。しかし遠くて弱い局を聞こうと思うと、ダイヤルを合わせたり再生調節の操作に、かなり苦労とコツを必要とします。 今回の修復では、「シャープの工場から出荷された時の様に、ピカピカの新品状態にする」と言うコンセプトで、徹底的に修復しましたので、製品としてもピカピカの最良の状態です。 ご質問や更なる詳細をお知りになりたい場合は、下記本サイト「雪乃町公園」の掲示板にお書き込み下さいませ。 (管理人「うつりぎ ゆき」)
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