輝きを取り戻した日立製ラジオ「サンライト」

外観正面

↑クリックすると大きな写真が見れます

 太平洋戦争の終結で、陸海軍という大きな取引先を失った日立製作所は、新たに一般家庭用ラジオの製造と販売に乗り出す事になりました。しかしラジオの分野では、松下(ナショナル、現パナソニック)や早川(シャープ)、山中(テレビアン、後に東芝が吸収)等の、戦前からの老舗メーカーが確固たる地盤を築いているのに加えて、多くの新規参入メーカーがひしめき合っていて、大変な激戦地となっていました。その中に新たに参入するなら、他社製品とは違う「セールス・ポイント」が必要です。
 そこで日立が打ち出した方針は、「高級な品質と良好な音質」「丈夫なキャビネット」と言う点でした。

 戦前・戦中に、安価で良質のラジオを製造する事を目的として、放送協会(NHK)によって定められていた「放送局型」は、戦後に「国民型」と言う新たな規格に改められました。国民型は1号〜6号までの8種類(2号と4号がそれぞれA、B2種ありましたので、合計8種類)の方式が定められましたが、いずれも4球式で、5号が戦前の主流の並四ラジオ、残りは放送局型123号と類似の高一ラジオです。
 その中で日立の「サンライト」は、ヒーターが6.3Vの新型真空管と、音質の良いダイナミックスピーカーを使用した「国民型4号」と言う規格に準拠し、それを収めたキャビネットは「踏台にしても大丈夫」と言う丈夫さが売り物でした。

 今回の修復では、内部の電気的な修復以上に、キャビネットの修復に手間と時間を掛けました。では詳しくご紹介致します。写真はクリックすると大きくなります。

 ピンク色の部分は修復前、クリーム色の部分は修復中、水色の部分が修復後です。一番下に、このサンライト号の動作中の動画があります。



全景
0-01:サンライト号 外観

 細い横ヒダ状のスピーカーグリルが、正面右のダイヤル部分を挟んで右側まで続き、側面にまで回り込んだデザインが特徴です。欧米のプラスチック製キャビネットを意識したと思われ、幅290mm、高さ200mm、奥行き170mmと、ST真空管使用ラジオとしては、ギリギリの小型サイズです。
 下の左のつまみは電源スイッチ兼音量調整、右は再生調整で、ダイヤル部分の同調つまみと合わせて三角形に配置するデザインは、戦前からの踏襲ですが、ダイヤル窓は丸型で新しい感覚です。尚このダイヤル窓の金色の縁飾りとプラスチック窓は、今回の修復で加えた物で、元々はありませんでした。
 塗色は、元は白一色の塗りつぶしですが、他に薄いピンク塗りの物と、木目を活かしたニス塗りの物のバリエーションがあった様です。入手したこのラジオは白一色でしたが、白一色ではあまりにも「のっぺらぼう」な印象なので、スピーカーグリルの部分をピンク色に塗り分け、更に底面の足は青に塗ったので、とてもチャーミングな印象になりました。
 



第1段階「惨状」

 オークションで入手したサンライト号は、写真で見て判っていたとは言え、ドブ川から引き上げた後、雨ざらしにしてたのでは?・・と思える程のボロボロで汚い状況で、どうみても「ゴミ」でした。
ボロボロの外観
1-01:外観

 白塗りの塗装はパリパリになって剥離し、あちこち薄赤色の下地塗装が見えています。木材の接合部には隙間が開き、ヒダ状の飾り材も波打って剥がれ掛けていて、屋外に長期間放置されていたのかも知れません。
 3つの操作つまみは、同調ダイヤル以外は失われています。

正面
1-02:正面

 ダイヤル部分は、バリコン軸に同軸型減速機構が組込まれていて、それを直接回すタイプです。丸いダイヤル窓部分は、縁飾りはおろか、ガラスやプラスチックの覆いすら無く、ダイヤル板や指針が直接露出しています。縁飾りも無い為、木口が直接見えていて、凝ったスピーカーグリルに比べて、デザイン上余りにも「未完成感」が漂います。特定の外国製品の真似をしたのかも知れませんが、適当な飾り部品の手配がつかなかったのかも知れません。或いは単に予算が足りなかったのかも知れません。
 写真でダイヤル窓付近が異様に白いのは、懐中電灯の光を当てているからです。

背面
1-03:裏側
 
 シャーシ上に埃が積り、荒廃した印象です。6つの穴が見える円筒形の物は、検波用真空管のシールドケースで、その奥にアンテナコイルが見えます。シールドケース内も含めて4本在る筈の真空管は、全てが失われている様に見えますが、右奥隅の全く見えない場所に、整流管12Fが忘れさられたまま残っていました。
 シールドケースの上には、天井から垂れ下がった鉄板が見えます。天井に金属板を貼るのは、補助アンテナの効果を狙って、稀に行われる事がありますが、このラジオの鉄板はアースに接続されていますので、「ブーン」と言うハム雑音を軽減しようと試みたのだと思われます。
 右端の電源トランスは、通常の「半埋め込み式」の取付方ではなく、櫓の様な異様な方法で取付られています。
 底板の右側は接合が外れていて、今にもバラバラになりそうです。

隙間だらけ
1-04:隙間だらけのキャビネット
 
 キャビネットは接合部が弛んで隙間だらけですし、ヒダ状の化粧板も波打って剥がれかけています。「踏台にしても壊れない」と謳った頑丈な造りの面影は、全くありません。
シャーシ
1-05:シャーシ
 
 シャーシを引出しましたが、キャビネットと同様にシャーシもボロボロに汚れて錆びています。
 このシャーシで真っ先に目につくのは、電源トランスの際立った大きさです。その電源トランスの手前のシャーシの切り欠き部は、スピーカーの取付部で、このラジオではスピーカーは、キャビネットにではなく、シャーシに直接取り付けられていた筈です。切り欠き部の左右に、スピーカーを留めていたネジ穴と、付着したクッション材のゴムの黒い跡が見えます。
 この切り欠き部の左の4穴のソケットに、唯一残っていた真空管12Fが挿ってました。巨大な電源トランスとスピーカー、そしてキャビネットに四方を囲まれて、後ろからでは全く見えなかった事が、結果的に幸いした様です。

シャーシ内
1-06:シャーシ内
 
 シャーシ内もボロボロに汚れていて、まさにドブ川から引き上げたかの様な、かなりの汚さです。内部は何度か修理を重ねた跡が見受けられ、抵抗器は様々なメーカーの物が混在しています。左寄りの銀色の円筒形の物は、交換された電解コンデンサーですが、固定されておらず、宙ぶらりんの状態です。このコンデンサー交換の際に、大きな配線間違いがあり、以降このラジオは「ブーン」と言う大きなハムノイズを伴う物になった筈です。
 右の真中に横位置にあるのは検波コイルで、その上部の2つの長い軸の部品は、左が電源スイッチ付き音量調整用可変抵抗、右は再生調整用の豆バリコンです。しかしどの部品も、最後に手が入れられてから長い年月が経ち、一様に汚れにまみれています。特に豆バリコンの付近は腐食が激しいです。

スピーカー
1-07:スピーカー
 
 本来のスピーカーは、電磁石を使ったフィールドコイル式ダイナミックスピーカーで、サイズは通常の16cmの物では無く、一回り小型でやや特殊なサイズの5インチ(12.7cm)の物でした。しかし断線してしまったのか、普通の16cmのパーマネントタイプの物に交換され、サイズが合わないので、シャーシにではなくキャビネットに無理矢理取り付けられていました。
 一回り大きいサイズなので、フレームがシャーシに当ってしまうらしく、その部分のフレームは、強引にカットされて下方に折り曲げられています。
 抱き合わせに取り付けられた出力トランスは、形が判らない程に汚泥がびっしりと付着していますが、驚いた事に、このスピーカーとトランスは、生きていました。

パイロットランプ
1-08:パイロットランプ
 
 ダイヤル盤照明を兼ねたパイロットランプは、バリコン周辺に取付金具が見当たらず、宙ブラ状態です。元はキャビネットの方に留められていたのかも知れませんが、電線の太さや長さが不揃いなので、これも一度手が入っている様です。
 パイロットランプは、普通なら真空管のヒーター電圧と同じなので、6.3Vの筈ですが、ここでは電源トランスのやや偏った中点を利用して、約3分の2の4Vが掛かる様になっていました。うす暗くはなりますが、電球切れを防ぐ目的だったのかも知れません。

グリッドへの配線
1-09:検波管への配線
 
 検波管(6C6)のグリッドへの配線には、針金が巻き付けてアースされていました。この部分はこのラジオで一番ハムノイズ(ブーン・・とかムーン・・と言う雑音)を拾い易い部分で、1cmでも5mmでも、出来る限り短くする必要がありますが、ここでは5cm以上も余裕を取っています。これではかなりハムを拾っていた筈で、それを何とか減らそうとして、シールドの目的の為に巻き付けたのではないかと、推測されます。
 天井に貼り付けた鉄板やこの巻線処置は、このラジオがかなりハムノイズに悩まされ、色々手を尽していた事が判ります。この辺りの配線処理は、ほんの僅かな事で大きく結果が変わってしまう部分です。製品出荷時から問題が在ったとは考えられませんので、度重なる修理の際に、少しずつ「触れば触る程悪くなっていった」のだと思います。
 この針金巻き付けや天井の鉄板張り、宙ぶらりんの円筒形電解コンデンサーやパイロットランプ、更にコンデンサー周辺の配線間違い、強引で無理矢理なスピーカーの取付等々、幾多の修理痕を見ると、このラジオの修理を手掛けていたのは、プロのラジオ店ではなくアマチュアだったと思われます。

ダイヤル
1-10:ダイヤル機構
 
 ダイヤル板は円形で、上半分に周波数目盛りが、下半分には洒落た書体で「Sun Light」の文字と日立マークが書かれています。そしてそのダイヤル板は、大きくカーブした金具で3点で支持されています。素材は下敷の様な厚地のプラスチックで、余り光を通しません。電球のすぐ近くだけが、寂しくオレンジ色になる程度だったと思います。
 このラジオは型番や名前を記した銘板や試験票が残っていないので、このダイヤル板の「Sun Light」のロゴと日立のマークが、日立製と判る唯一の証しです。



第2段階「キャビネットの修復」 
 ここでは余りにも傷みが激しく見るに堪えないキャビネットを、ピカピカにします。従来の他のラジオの様に、単に「新品の状態」に戻すだけではなく、粗末な材料しか得られなかった当時に在って、デザイナーが本来目指した様な、欧米のピカピカツヤツヤのプラスチックキャビネットみたいに仕上げる事にします。
 ゴミ捨て場から拾って来た様な、埃の臭いが漂ってきそうなボロボロのキャビネットが、ピカピカに変身する様をご覧下さい!

ボロボロキャビネット 2-01:ボロボロのキャビネット
 
 キャビネットは余りにも傷んでいます。生じた隙間にも長年の埃や汚れが積ってしまっているので、そのまま接着剤を詰めて接着しようとしても、接着力は得られません。
 



バラバラに
2-02:一旦バラバラにしました
 
 キャビネットの塗装を剥がそうと、電動ヤスリ掛け機を使っていると、その振動で接合部がどんどん緩みだしましたので、一旦バラバラにしました。
 普通はベニアの合板が使われるラジオのキャビネットですが、このサンライト号では、ラワンや樫(?)の様な硬い一枚板が使われていました。
 

完全にバラバラに
2-03:完全にバラバラにしました
 
 貼付けられているヒダ状の飾り板まで剥がして、完全にバラバラにしました。これで古い塗装を剥がすのは、かなりやり易くなりました。ヒダ状の飾り板は、剥がす時に折れてしまいましたが、これは平面に貼ればいい部品なので、大きな問題はありません。
 

組み立て
2-04:再組み立て
 
 全ての部材の塗装を剥がして表面を磨き、狂いを修正した後、組み立てます。元は釘を使って組み立てられていましたが、現在では強力な木工用接着剤が得られるので、釘は使わずに木工ボンドで組み立てます。釘穴や、朽ちてしまって木材が脱落してしまった部分は、木工パテで埋めました。
砥の粉
2-05:砥の粉
 
 組み上がったキャビネットに砥の粉を塗って、木目を埋めます。
下地塗装
2-06:下地塗装
 
 プラスチック製の様なツルツルな表面にする為、サフェ−サ−と呼ばれる下地塗料を塗って、研摩し、更に塗り・・・ それを5回繰り返して、表面をツルツルにしました。
 ここまで来ると、やっと完成の時の姿が見えて来ます。

白塗り
2-07:本塗装(白)
 
 ネズミ色のサフェーサーと白いプラモデル用の「ファインサフェーサー」でツルツルになったら、白の水性スプレーペイント(アトムペイント製)で、本塗装しました。本塗装は、油性(シンナー臭のやつ)の方が乾燥が早く、仕上がりも良い様ですが、下に塗った物を溶かしてしまうので、ここから先は全て水性を使います。塗装は2回塗りです。
マスキング
2-08:マスキング
 
 グリル部分は、ヒダの凸部のみをピンクに塗りますので、凹部は細いマスキングテープで覆います。面倒で根気が要る作業です。
ピンク塗り
2-09:本塗装(ピンク)
 
 白のまま残す所をマスキングして、白と同質のピンクのスプレーで2回塗りました。
 この様に多色を塗る時は、薄い色を先に、濃い色を後で塗ります。

塗り終り
2-10:塗装終了
 
 本塗りが終ったところです。当初は元と同じ白一色のつもりでしたが、それだとあまりにも「のっぺらぼう」になるので、この様なピンクとの2色塗りにしました。ピンクを選んだのは、このラジオには薄いピンクのバージョンもあったそうですので、それに因みました。
 ついでに内側も白く塗っています。
 今回の塗装については、エレキギターの塗装をした人のサイトを、色々拝見して参考にさせて頂きました。

足
2-11:
 
 足は、元は幅20mm、厚さ5mm程の板が貼られていましたが、よりチャーミングになる様に、半円形の棒を貼り、前から見える部分は曲面に削りました。そしてその足は青く塗りました
飾り金具
2-12:ダイヤル窓の飾り金具の製作
 
 ダイヤル窓の部分は、上の「第1段階」の2番目で書きました様に、何の飾りも配慮も無い只の「丸穴」で、余りにも無雑作で未完成感が漂っていました。そこでここに何らかの縁飾りを着ける事にしました。
 初めのイメージは真鍮の削り出しでしたが、そんな物は大きな旋盤が無いと出来ませんし、特注で作って貰うのも、何か方向が違う様に思います。費用も掛り過ぎます。
 ホームセンターや東急ハンズ、あちこちのネットショップ等を色々探して、手芸店で太さ5mm、直径60mmの金色のリングを見つけました。ざっくりしたショルダーバッグの、紐の繋ぎの部分用の部材の様です。そのリングの断面を半月形になる様に裏半分を削り、銅板で作った長さ12mmの円筒を半田付けしました。これを丸穴に表からすっぽり嵌め込んで、ハトメの要領で裏側を開いて留めます。
 この飾り金具は、今回の修復の一つの「目玉」で、かなり手間と時間を掛けました。

ダイヤル窓
2-13:ダイヤル窓
 
 縁飾り金具の次は、その窓を覆うガラスかプラスチックを工夫しなくてはなりません。ガラスは素人では無理ですので、身近にあるプラスチックやセルロイドで、何か適当な物を探します。単なる一枚のプラスチック板でも良かったのですが、多少凹凸が在った方が、光が複雑に屈折して綺麗に見えると思い、写真の様なプラスチック板を嵌めて、接着剤で留めました。
 
 これは・・・ ペットボトルの底の部分です。

割れたダイヤル盤
2-14:割れてしまったダイヤル板
 
 ダイヤル板は、支持金具から外す時に、無理な力が掛かって割れてしまいました(><)
 試しに洗ってみると、印刷が落ちてしまいます。部分的に剥げている箇所もあります。加えてこのプラスチックが余り光を通さないので、これを修復して使うのは諦めて、複製品を作る事にしました。

ダイヤル板複製
2-15:ダイヤル板の複製
 
 ダイヤル板の複製は、オリジナルをスキャナーで読み取って修正し、それをプラスチック板にプリントすればいいと考えました。しかし家庭用のプリンターでプラスチックにプリントするのは、ほとんど不可能でした。
 幸い、サンライトのダイヤルは円形でしたので、プリンタブルの生DVD-R盤にプリントした後、裏面の銀色の録画面を剥がし取る方法で、透過製の高いプラスチックダイヤル板を、複製する事が出来ました。(CD-R盤だと、録音面が印刷面のすぐ下なので、剥がす事が出来ません)
 写真は試作品で、縁の紫色の円がフリーハンド修正で、幾分ヨタヨタしてますが、最終的に作った物は、綺麗な円になっています。周囲の赤い部分は当然カットしましたが、DVDの素材は丈夫なポリカーボネイトですので、カットも結構神経を使いました。

ダイヤル付近
2-16:ダイヤル完成
 
 複製したダイヤル板を取り付けた、完成後の様子です。指針は元の物を綺麗にして使っています。中心の透明な部分は、半透明な物を重ねる事も考えましたが、殆どがつまみで隠れるのと、光が内部の支持金具にキラキラと反射して綺麗なので、あえて透明なままにしてあります。
つまみ
2-17:操作つまみ
 
 つまみは、一つしか残っていないので、3つ揃えて新しい物を準備します。
 現在の市販品は、高級アンプか業務用機器に合わせたデザインの物がほとんどで、今回のサンライト号に合うデザインの物が見当たりませんので、以前に買っておいた黒くて小さ目の物を、加工して使います。これは留めネジの無いタイプでしたので、インサート・ナットを打ち込んで留めネジを入れ、黄色に塗りました。本当はパステル・オレンジに塗りたかったのですが、そういう色の塗料はありませんでした。
 実はサンライト号の再生豆コンとバリコンの軸は、普通の直径6mmより僅かに太く、唯一バリコン軸に残っていたつまみは、食い込んでしまって、割らないと外れませんでした。アメリカのインチ規格は6.1mmだと聞いた事がありますので、もしかしたらインチ規格品が使われているのかも知れません。
 もちろん黄色く塗った新しいつまみの内、再生用と同調用は、その僅かに太い軸のサイズに合わせてあります。

キャビネット完成
2-18:キャビネットの修復完了
 
 これでキャビネットの修復が完了しました。操作つまみの部分には文字を入れて、上から仕上げ保護塗装を施し、更にワックスを掛けて、ピカピカにしました。金色のダイヤル窓の縁飾りと相まって、かなり可愛いレディース好みな印象になりました。
 写真は裏から懐中電灯を当てて撮った物です。


第3段階「部品の修復」 
 キャビネットの修復が終ったので、次は内部の部品を修復したり復刻します。「サンライト号」は戦後の昭和22年製ですが、個々の部品の様式については、殆どはまだ戦前や戦時中の物と同じと考えて差し支えないと思います。
シャーシ
3-01:シャーシ
 
 シャーシから全ての部品を取り外し、錆と汚れを完全に落します。
部品ならべ
3-02:使われていた部品
 
 使われていた部品を一旦並べてみました。
 上段:シャーシ、電源トランス
 中断:2連バリコン、検波管のシールドケース、再生バリコン、検波コイル、アンテナコイル
 下段:真空管ソケット
 これから個々の部品の点検とクリーンアップ、整備に取り掛かります。

塗り終ったシャーシ
3-03:塗装の終ったシャーシとキャビネット
 
 シャーシは元は無塗装の銀色でしたが、錆び止め下地塗装の後、可愛いキャビネットの塗色に合わせて、「ヨクナル号」と同じ様なパステルグリーンに塗りました。
コイルとトランス
3-04:コイルとトランス
 
 コイルとトランスです。
 左上が検波コイルで、左下がアンテナコイル、右の大きくて引出線が不気味に曲っているのが、電源トランスです。

 コイルは前回の「放送局型11号」と同様に、赤い銘板付きのスター製の汎用市販品です。メーカー製のラジオに、汎用市販品が使われている事は考え難いので、周波数帯域拡大の際に、交換されたのだと考えられます。そしてこのコイル交換は、「放送局型11号」の時と同様に、再生量の点で不具合を生じました。

 トランスは、四球ラジオにしてはかなり大型で、五球ラジオでも十分な大きさです。モデルチェンジ前のサンライト号は、巻線の多い全波整流で、それもこのトランスと同じ外見でした。もしかしたらモデルチェンジ前の物や、更に同時期に発売された五球スーパーの「ムーンライト号」とも、共通を図ったのかも知れません。メーカー製のラジオのトランスなので、引出しは端子ではなくエナメル線ですので、判らなくならない様に、各線にはテープを貼って表示を書き込んでいます。
 二次側電圧は、B電圧が320Vとかなり高めですが、これはフィールドコイル式のスピーカーに合わせたものです。
 このコイルとトランスが切れていると、代替品が入手出来る迄修復が止まってしまうのですが、幸いどちらも使える事が判りましたので、コイルは汚れを拭き落し、トランスは錆を落した後に青色に塗りました。
 左上は使われていたパイロットランプの表示球で、この時点では生きていましたが、修復後すぐに切れてしまいました。

抵抗器
3-05:抵抗器の復刻
 
 抵抗器は度重なる修理の度に交換されたらしく、薄灰色、濃灰色、緑色、赤色の少なくとも4種類の物が使われていました。後に追加した物も含めて全部で14本必要ですが、使える物は緑色の2本だけでしたので、123号や11号の時と同様に、当時のスタイルに合わせた「復刻品」を12本複製しました。
 今迄は抵抗値とメーカー名の表記は手書きでしたが、今回はゴム印を作ってメーカー純正品らしくしました。

コンデンサーの復刻
3-06:コンデンサーの復刻
 
 電解コンデンサー以外のコンデンサーは、追加も含めて9本です。その内マイカコンデンサー以外のペーパーコンデンサー5本を、抵抗器と同様に当時のスタイルで復刻しました。マイカコンデンサー(通称「マイカドン」)は使える事が多く、今回も使われていた3本はそのまま使えました。このマイカコンデンサーは、なかなか上手く復刻し難いのですが、今回中古品を十数本入手出来ましたので、追加の1本はそれを使いました。
 ペーパーコンデンサーは、このラジオの作られた昭和22年頃だと、もう少し小型化されていたのかも知れませんが、123号のラベルを使ったので少々大きい物となり、配線の時に少し苦労する事になります。 

ブロックケミコンの復刻
3-07:ブロックケミコンの復刻
 
 電解コンデンサーは、元はブロックタイプの集合コンデンサーであったと推測出来ますが、サイズや形状は勿論、取付位置すら判りません。そこで写真の様な物を作り、それらしくラベルも作って貼りました。内部に5つの電解コンデンサー(電源平滑3、デカップリング、出力管カソード用)が入っていて、端子は共通−を含んで6つです。
 このブロックケミコンと後程ご紹介するチョークトランスは、電源トランス取付ネジと、用途不明のネジ穴を利用して取り付けました。

ブロックケミコン中身
3-08:ブロックケミコンの中身
 
 復刻ブロックケミコンの中身です。ケースはシナベニアで、それにアルミテープを貼り、更に銀色に塗装し、ネジ穴を合わせたアルミ板に貼付けました。右から450V10μF、450V20μF、450V10μF、450V20μF、50V10μFです。
 
スピーカー
3-09:スピーカー
 
 第1段階の7番目で触れました様に、新造時のスピーカーは直径12.7cm(5インチ)のフィールドコイル式ダイナミックスピーカーでした。フィールドコイル式とは、ボイスコイルを囲む磁石に電磁石を使う方式ですが、間もなく強力な永久磁石が開発され、それを使ったパーマネント・ダイナミックスピーカーに取って代られ、その後は使われる事はなくなりました。現在入手しようと思えば、オークションで中古品が出るのを待つしかありませんが、高価な上に、12.7cmの物はほとんど入手不可能だと思います。
 かと言って、一回り大きな物が無理矢理取り付けられていた元(二代目)のスピーカーも、傷みが激しくサイズも合わないので、使うのは無理です。スピーカーは、まるっきり新しい物を使う事にしました。現代で使われているスピーカーも、二代目と同じパーマネント・ダイナミックスピーカーですので、サイズさえ合えばそのまま使えるのですが、現代の物は磁気回路(写真で四角いフレーム状の部分)が、輪切り大根の様な扁平な形をしていて、外見上違和感があります。
 幸い以前買っておいた東芝製のフレーム型の手持ち品が、ほぼぴったりのサイズ(直径12cm)でしたので、それを使う事にしました。

ソケット
3-10:真空管のソケット
 
 真空管のソケットは、薄いベ−クライト板に穴を開けて電極金具を挟み込んだ、「ウェファー型」と言うタイプですが、使われていた物は、電極金具の保持方法が甘く、真空管を挿入する力で金具が外れてしまいます(写真の赤丸の部分が外れています)
 そこで4つのソケットは全部交換する事にしました。サンライト号では、6本脚の「UZ」を3つと、4本脚の「UX」を1つ使います。
 写真の2つは、大きさが大小ある様に見えますが、これは遠近法による写り方で、実際には同じ大きさの物です。

トランス
3-11:トランス
 
 このラジオでは、電源トランス以外に、電源チョークトランスと出力トランスの、2個のトランスが必要です。チョークは本来は無かった物で、スピーカーのフィールドコイルが、チョークの役割を兼ねていました。今回はスピーカーに、フィールドコイルの無いパーマネント型を使う事になったので、単独でチョークが必要になりました(抵抗器で代用も出来ますが、チョークを使った方が、「ブーン」と言うハムノイズが低減出来ます)。
 秋葉原のトランス専門店から45mA30Hの物を新規購入し、出力トランスはインピーダンスが10kΩの手持ち品を使いました。かなり以前に買ったので、安い値札が付いたままになってます。使用する出力管は42(最適7kΩ)か6Z-P1(最適12kΩ)ですので、どちらを使ってもいい様に10KΩの物を使う事にしました。

シールドケース作り
3-12:シールドケース作り
 
 このラジオでは、検波管6C6と高周波増幅管6D6の2本に、シールドケースが必要ですが、実際に使われていたのは6C6だけでした。確かに、高周波増幅管はシールドケース無しでも使えない事はなく、実際に他でも省略されたラジオは在った様ですが、在る方が絶対いいので、6D6にもシールドケースを用意します。6C6と同じ完全密閉タイプの手持ちが無いので、持っている胴着だけのタイプに、細いスプレー缶の下部を切り取って被せる様にしました。

 真空管の手頃なハンドブックである「実用真空管ハンドブック」(誠文堂新光社)の66頁(6C6の解説頁)には、シールドケースは帽子型より胴着型の方が良い様に書かれていますが、必ずしもそうとは言えません。実際に試すと解るのですが、6C6や6D6、UZ-57等の、グリッドが頂部にある真空管では、この部分を覆う事が一番シールド効果が上がりますので、この様に密閉型、或いは帽子型の方が効果が高く、胴着だけではノイズが残ります。

真空管当初
3-13:使用真空管(当初予定)
 
 このラジオでは整流管12F(イチニエフ)以外は失われていましたので、残りの3本は用意する事になります。高周波増幅管6D6(ロクディーロク)と検波管6C6(ロクシーロク)は当然で唯一の選択肢なのですが、出力管についてはかなり迷いました。

 本来の国民型4号Bは、出力管は6Z-P1(ロクゼットピーワン)なのですが、「日本ラジオ博物館」のサイトを見ると、色以外はこのラジオと全く同一のサンライトに42(ヨンニ)が使われていましたし、実際このラジオでも、使われていたカソードのバイアス抵抗から推測すると、6Z-P1ではなく42が使われていた可能性が高いです。
 写真は左から6D6(米国ナショナルユニオン)、6C6(双葉電子)、42(ミオ:大阪電子工業)、12F(マツダ:現東芝)と、凄まじいまでの「寄せ集め」です。 

真空管(決定)
3-14:使用真空管(決定)

 しかし出力管に42を使うと、全使用電流が12Fの最大出力電流(40mA)をオーバーしてしまいます。真空管は半導体と異なりタフネスな素子ですので、多少のオーバーは大丈夫ですし、そういう使い方をしているメーカー製品もありますが、やはり余り好ましいものではありませんし、製造後70年近く経っている電源トランスや唯一の生き残りの12Fに、過度な負担は掛けたくありません。
 たまたま手持ちの6Z-P1に、このラジオにぴったりの昭和23年製造の日立製がありましたので、それを使う事にしました。
左から6D6(トウ:品川電機)、6C6(マツダ)、6Z-P1(日立)、12F(マツダ)です。

 尚その後トウ製の6C6を入手し、6D6と6C6が当時と同時代の同一メーカー製で揃いましたので、現在は6C6はそのトウ製を使っています。

ダイヤル照明部
3-15:ダイヤル付近
 
 ダイヤル板を取り付ける前の様子です。
 ダイヤル照明は、本来は6.3Vのパネル球(豆電球)一つですが、白とピンクの外観に似合う様に、もっと明るくしたいです。しかしパネル球は1球につき150mAも喰いますので、増やす訳にはいきません。LEDなら数mAなので幾らでも点灯出来ますが、当時はLEDなんてありませんので、不釣り合いです。
 色々悩みましたが、結局6.3Vのパネル球を主灯としてそのまま使い、更に高輝度白色LED2灯を補助灯として追加しました。全体はLEDで蛍光灯の様に白く光り、周波数表示部分はパネル球のオレンジ色になり、いい感じになりました。
 LEDは本来直流で点灯させる物ですが、これ以上半導体は使いたくないので、ダイオードによる整流は省略して、直接交流で点灯させています(保護抵抗は入れてます)。今の所問題はなさそうですが、交流点灯なので、携帯のカメラで撮影しようとすると、画面ではちらつく事があります。
 そのパネル球とLEDを、門の字型の取付金具をアルミで作って装着し、それをバリコンにネジ穴を開けて取り付けました。元はカーブ状の金具だったダイヤル板支持金具は、位置決めが極めて難しいので、やはりアルミで真直ぐな物を新たに作りました。

部品取付
3-16:シャーシに取り付け
 
 これで全ての部品の用意と修復が終りましたので、シャーシに取り付けました。第1段階5番目(1-05)の、汚かったシャーシと見比べてみて下さい。汚くボロボロだった時の面影は、全くありません!
スピーカー取付様子
3-17:スピーカー付近
 
 スピーカーの取り付けの様子です。
 スピーカーは、前面の4つの取付穴の内の下側2つをシャーシに留め、それだけでは不安定なので、磁気回路のフレーム部分を、シャーシからの長いネジにスペ−サ−を介して、取付金具を作って留めました。
 スピーカーをこうしてシャーシに取り付けると、修理の際には便利ですが、木製のキャビネットにしっかりとネジ留めした場合に比べると、音質上は幾分不利になります。更に、大きな音量の時に振動がバリコンやコイルに伝わって、ハウリングを起す可能性がありますので、バリコンやコイルの取付ネジには、ゴムのクッションを挟んでいます。スピーカーのネジも、前面の2つはクッション付きです。これはボロボロになっていた元のシャーシでも行われていました。
 スピーカーの磁気フレームの上側には、出力トランスを取り付けています。出力トランスは、磁気フレームではなく、スピーカー自体のフレームに、斜め向きに取り付けられてる事が多いのですが、そこに付けようとすると、フレームにネジ穴を開けなければならず、スピーカーのコーン紙を傷付けてしまう可能性が高いので、磁気フレームに取り付けました。ここは電源トランスのすぐ近く(右端の青色の物が電源トランス)で、こんな近くだと、向きによっては両方のトランスの磁力線が結合して、「ブーン」と言う大きなハム音が出てしまう場合があります。しかし2つのトランスの磁力線の向きが違うので、ハム音はほとんどありません。
 尚、右奥に半分だけ見えている真空管は、電源整流(交流から直流に変換する事)用の整流管12Fですが、熱をもつ整流管をこんな狭い所に配置するのは、好ましくありませんし、切れた時にも、シャーシを引出さないと交換出来ないので、不味いです。

 手前には、スターの赤いラベルが付いたアンテナコイルが見えています。左の白い大きな物はバリコンです。

電源トランス付近
3-18:電源トランス付近
 
 電源トランスは錆を落した後で、コア(鉄芯)と巻線を覆う紙を青く、支持金具はシャーシより濃い緑に塗りました。
 このトランスの取付方法は、上下を支持金具で重ねて、それをシャーシからの長いネジで留めると言う、櫓の様なスタイルで、ちょっと他では類を見ない方法です。
その為、只でさえ大きなトランスが、更に大きく際立っています。
 この取り付け方は、1本のネジで、上部金具、トランス本体、下部支え金具の3つを留める事になり、組み立ての時にかなり面倒で手間が掛りました。この辺りは、新規参入で合理性のノウハウに乏しかった事が、見て取れます。トランスの上に乗っている横向きのカバーの中は、ヒューズホルダーです。
 コアには何か銘板シールらしき物が貼られていますが、コアと一緒に錆びて、全く判読不可能です。

ヒューズ
3-19:ヒューズ
 
 電源トランスの上部にあるヒューズです。手前側には「100」、奥には「90」と表示されていますが、これは当時は電源事情が悪くて、夜間になって多くの家庭が電気を使うと、電圧が下がってしまう事があった様です。その為、電圧が90V位まで下がってしまった時には、ヒューズを90V側に装着します。つまり電源電圧切り替えスイッチを兼ねている訳ですから、両方同時に装着してはいけません。
 勿論現在の日本の電源は極めて安定しているので、この様な仕組みは全く不要ですが、今回の修復に際しては、ちゃんと90V側への配線も行っています。
 使用ヒューズは、ラジオでは1Aで十分です。無知なサイトや修理人が3Aや5Aのヒューズを使っているのを見掛けますが、極めて危険です。

バリコン
3-20:バリコン
 
 バリコンは123号の様な大型の2連バリコンです。ローター(回転子)の形が、通常の半円形ではなく、もっと浅い形の「周波数直線型」バリコンが採用されています。半円形の通常のバリコンを使うと、ダイヤル表示板は高い周波数部分で段々細かくなってしまいますが、こういう「周波数直線型」ですと、比較的等間隔に近い表示になります。この辺りは、高級品を目指したサンライト号の特長の一つだったのでしょう。

第4段階「配線」 
 全ての部品の取付が終りましたので、いよいよ肝心の電子回路の部分に着手します。
回路図
4-01:回路図
 
 回路は、変更や定数の違いがありますし、修復にあたって追加したり変更した部分もありますが、基本的には高周波一段増幅ラジオの標準回路で、戦前・戦中の放送局型123号と、電源部以外はほぼ同じです。(元々の回路は、こんな感じであったと思います。複数の資料間で相違点があったり、メーカー側での変更があったらしい箇所や、修理を重ねた現物が、余りあてにならなかったりで、本来の回路を特定するのは難しいです。)

 アンテナから入った電波は、コイルとバリコンで好みの局が選択された後、6D6で高周波増幅されます。6D6は123号の12Y-V1と同特性の可変増幅率管ですので、10KΩの可変抵抗でカソード電圧を変化させ、増幅率を変える事で、感度(音量)調整します。本来は6D6の選別品である「6D6S」という球を使う予定だった様です。
 増幅された高周波信号は、検波コイルを経て6C6でグリッド再生検波され、音声信号を取り出します。その後、抵抗容量結合(CR結合)で42又は6Z-P1に送られ電力増幅され、スピーカーを鳴らします。
 42のバイアス抵抗(R10)は本来は410Ωですが、「3-14:使用真空管(決定)」の項でも書きました様に、電流が多過ぎて整流管に負担を与えますので、ここでは600Ωにして電流を減らしています。又6Z-P1を使用する場合でも、6Z-P1のバイアス抵抗の750Ωに近い値で都合が良いです。

 電源部は12Fによる半波整流です。本来は2つの平滑コンデンサーと、チョーク兼用のスピーカーのフィールドコイルで、交流分が除去され、その際整流直後は320V程あった電圧も大幅に落ちて、250V以下になります。しかし今回は、フィールドコイルほどには直流抵抗の大きくないチョークコイルを使っていて、そのままでは電圧が高過ぎになりますので、R11とC12によるフィルターを一段追加しています。そのお陰で、ブーン・・というハムはほとんど無いレベルにまで除去されてます。
 尚、組み上がった後で、ピーー・・・と言う発振がありましたので、それを抑える為に、R101〜103、C101を追加しました。

実体図
4-02:実体図を描きます
 
 いつもの様に実体図を描きます。
 このサンライト号は修理を繰り返していて、オリジナルの配線が判らなくなっていました。ですので、新たに配線を考える事にします。出来るだけ合理的になる様に考えて部品を配置し、実体図を描いてみます。その実体図は、
A図:真空管のヒーター配線と100V関係の配線、B図:端子間の配線、C図:抵抗器やコンデンサーの配線 の3枚に分けて描き、一か所描き終る毎に、回路図をマーカーで塗り潰して、間違いを防ぎます。
配線開始
4-03:実際に配線を開始
 
 実体図が描けたら、後はそれに従って実際に配線するだけです。順序はA図→B図→C図の順です。
 配線はいつもの様にすずめっき銅線にエンパイアチューブと言う絶縁チューブを被せて行い、シャーシに出来るだけ密着させて、縦横に整然と引き回します。ビニール線は、一部の例外部以外は使いません。
 エンパイアチューブは、白、黄、緑、赤、黒の5色(白は無いので黄色に白スプレーを塗って作ります)を用意して、JIS5色配線法に従って色分けして使います。但し5色法だと、プレートと第2グリッドへの配線が赤になりますので、結果的に赤だらけの色分けになってしまいます。

火入れ式
4-04:火入式
 
 Aのヒーター配線と100V関係の配線が終った時点で、一旦電源を入れ、真空管のヒーターとダイヤル照明が灯る事を確認します。ここでヒーターと照明が正常で、配線間違いが無い事を確認しておけば、完成した時に万一鳴らなくても、この部分には間違いが無い事は確実ですので、間違った箇所を探す際の手間が楽になります。
 シャーシ内からパイロットランプへの配線は、123号やこのラジオの様に、バリコンに検波管のグリッド抵抗を配している場合には、2芯シールド線を使用し、その編線はアースに落しています。効果の有無は判りませんが、この部分に流れるのは60Hzの生の交流ですので、それをバリコンやグリッド配線の近くに配する事による、交流分の拡散に対する予防処置です。
 スイッチをONにすると、パイロットランプとLEDが煌々と灯り、暫くして真空管のヒーターが赤くなりました。サンライト
号は、推定約50年振りに電気が流れ、この時点で「ゴミ以下」から「電気製品」に戻りました!
配線終了
4-05:シャーシ内の配線終了!
 
 引き続き配線作業を進めます。勿論一か所終える毎に、実体図と回路図をマーカーで塗り潰して、間違いを防ぎます。高一ラジオの配線なら、急いで雑に作るなら半日程度で出来てしまいますが、一つ一つ確認し、4日程掛けて丁寧に行いました。
 復刻した抵抗器やコンデンサー、ブロックケミコンが少々大き過ぎて、配線は混み入ったものになってしまいました。
 第1段階の6番目の写真と比べて、検波コイルの向きが逆になっている点に、ご注意下さい。この向きの方が配線が合理的である事に、実体図を描いている時に気付いて、向きを変えました。実体図を描かなければ気付かずに配線を始めてしまい、後での修正が出来なくなる所でした。

グリッドへの配線
4-06:検波管グリッドへの配線
 
 第1段階の「グリッドへの配線」でもご説明した通り、この部分は最短にする必要があります。そしてバリコンの端子から、グリッドコンデンサー(C3)とグリッドリーク抵抗(R4)を経てグリッドに入るので、一旦中継端子が必要です。元の配線では中継端子を使わず、無雑作に「空中結線」してありましたが、今回の修復ではバリコンにネジで中継端子を取り付けて、そこから最短距離で検波管のグリッド(写真下部)へ引込みました。グリッドにはシールドケースのキャップが被さりますので、この線が露出するのは僅か2.5cm程度で、この部分からハム雑音を拾う事はありません。バリコンに中継端子を立てるのは、123号で用いられていたノウハウです。
配線完了
4-07:配線完了
 
 これで配線は全て完了し、修復の殆どが終りました。この後再度配線の確認をして、いよいよスイッチをONします!
鳴った!
4-08:鳴ってます!
 
 放送を受信しながら調整中の姿です。
 実際には4-2で実体図を描く時に、重大な描き間違いを犯してしまい、その通りに配線したサンライトは、当初は全く鳴りませんでした。仮配線で無理矢理鳴らしたり、何度も確認したりを、7時間にわたって繰り返し、ようやく間違いに気付きました。
 その他、スピーカーの取付にほんの少し歪な力が掛り、音質が甚だ悪かったり、高周波増幅部で発振を起したり、再生が強過ぎたり・・と、様々な不完全箇所があり、何日も掛けてようやく解決・修正する事が出来ました。


第5段階「仕上げと細部のご紹介」 
 これでラジオとしての機能は復活しました。後は仕上げです。そして細部をご紹介します。
銘板
5-01:銘板
 
 シャーシの背面には、4.5cmの間隔のネジ穴が在るので、ここに何らかの銘板か表示類が付いていたのだと思います。又電源トランス背面部にも、銘板らしき物の痕跡があります。
 そこで、日立の広告の写真からマークや昔の書体を拾い、2枚の銘板を「それらしく」作りました。シャーシに取り付けた方は、金属製っぽく黒と灰色で作り、トランスの方は、わざと古びた感じの色で作りました。

製造年月
5-02:製造年月?
 
 シャーシの背面の電源コードの引出し部の上には、2206と言うサイズの不揃いな数字が打刻されています。これが製造年月なのか、製造番号なのか、或いは全く別のコードNo.なのか判りませんが、このラジオの時代背景から推測して、「昭和22年6月製造」と判断するのが、一番正しい様に思われます。(この点については、日立に勤務されていた方からも、「製造年月でしょう」とのご意見を頂きました) だとすると、この機種としてはかなり初期の製造と言う事になり、出力管に42が使われていた事や、標準とは色々相違点のある回路だった事に対して、一気に説明がつきます。
裏側
5-03:裏側
 
 今回の修復では、シャーシ上の部品やキャビネットの内側も塗装しましたので、裏側から見ても十分に綺麗です。
 ピンクに塗った2本のシールケースは、左がキャップ部を加えた物です。この写真から判る様に、キャビネットまでの高さに余裕が無いので、左側のシールドケースと中の真空管6D6は、シャーシごと引出さないと外せません。ちょっとした計算違いでした。右のシールドケースと中の6C6は、手間は掛りますが外せます。

裏蓋
5-04:裏蓋
 
 裏蓋は、キャビネットの奥行きにほとんど余裕が無く、裏蓋をはめる溝も無かったので(シャーシがはみ出る程だったので、少し木材を接いでキャビネットの奥行きを増しています)、もしかしたら元々は無かったのかも知れませんが、無いと埃が溜るので、新規に作りました。前面デザインをモデルにした裏蓋で、ピンクと緑色に塗った、ちょっと遊び心のデザインです。キャビネット程ではありませんが、この裏蓋も下地塗装を行っています。通気孔は大きいので、埃が入らない様に薄い布を張りました。
 蓋の固定方法は、下部はキャビネット底部の小穴に、蓋に付けたピンを差し込み、上部は写真で判る様に、左右両端に半円形の留め木、そして上からの小さな押え金具で留めています。

電源コード
5-05:電源コードとコンセント・プラグ
 
 電源コードは当然袋打ちコードですが、通常の黒ではなく赤を使いました。袋打ちコードは既に製造中止で、黒は入手が困難ですが、赤はこたつ用に今でもホームセンターや電器店の売場で見掛ける様です。
 その先のコンセント・プラグは、丸い「ポニーキャップ」(パナソニック電工WH4000)です。これは今でも現行品で手に入りますが、10個入りですので、1個や2個ですと、なかなか売ってくれるお店が見つからないかも知れません。色は黒しかありませんので、ピンクに塗りました。

旧JISネジ
5-06:旧JISネジ
 
 サンライト号の頃のネジは、今の物とはピッチの違う「旧JISネジ」です。ビスとナットを組み合わせて物を留めるなら、今のネジ(ISOネジ)でもいいのですが、相手の物にネジが切ってある場合(例えばバリコンの足を留める場合など)には、旧JISネジが必要です。旧JISネジでも長さ10mmのM3ビス・ナットは、普通にホームセンターでも売っていますが、短い物となると全然見当たりません。
 今回長さ6mmのマイナスネジを100本購入する事が出来ました。このネジも含めて、サンライト号に使ったネジは、全て旧JISネジです。

ダイヤル窓
5-07:ダイヤル窓付近のアップ
 
 ダイヤルの同調軸は、シャープの123号と同様の、バリコン軸に減速機構が内蔵された物です。つまみを2回転させると、ダイヤルは半回転(180度)しますので、減速比は4:1と言う事になります。この様な同軸型ダイヤルは、操作つまみを離れた場所に配置して、減速円盤や糸で伝達する方式と比べると、デザイン上は多少野暮ったいですが、操作感は良くなります。
このラジオの動画
5-08:放送を受信中のサンライト号の動画です。(You Tube)
音楽(カントリーヨーデル)
トーク(バックに音楽)



 これで日立製作所製ラジオ「サンライト」のご紹介は終りです。
 戦後一気に入って来た欧米のデザインを意識して、精一杯の背伸びをしてお洒落をしたサンライト号は、ゴミ以下のボロボロの状態から、その名前の通り大陽の光の様にピカピカに輝く、キュートな姿を取り戻しました。
 ラジオの製造のノウハウに乏しい当時の日立は、内部のあちこちに不合理や非効率な設計が見受けられますが、小さくても高性能な製品に仕上がっています。
「雪乃町ラジオ展示館」の他の戦前製ラジオに比べると、回路自体は123号とほとんど同じ「高周波一段増幅ラジオ」ですが、スピーカーがダイナミック・スピーカーですので、音質が格段に良くなっています。しかし「日本ラジオ博物館」の記述によると、販売は伸びなかった様です。日立は一旦はラジオから撤退しますが、その後mT管の時代になってから再参入して、「エーダ」「ジーナ」という名前のシリ−ズのラジオを発売して、ヒットを続けます。

 このラジオについて、ご質問やご意見がありましたら、下記の本サイト「雪乃町公園」の掲示板にお気軽にお書き込み下さいませ。

(平成28年1月修復完了 管理人「うつりぎ ゆき」)

その他のラジオは雪乃町ラジオ展示館

 雪乃町公園案内板に戻る





inserted by FC2 system