タイガー電機製123号受信機(初期型)の修復
全景

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 この123号受信機の正式名称は「放送局型第百二十三號受信機」と言います。「放送局型」とは、性能・品質が良くて廉価なラジオを普及させる為に、放送協会(NHK)が定めた方式のラジオ受信機で、戦時中は更に資材を最小限に抑える為に、鉄の塊であるトランスを省略した「トランス・レス方式」の回路が定められました。生産性の向上と効率化の為に、デザインも各社統一され、全メーカーが同じ物を製造しました。

 戦時中の機種は、3球式で再生検波→電力増幅・倍電圧整流の「並三ラジオ」の122号と、4球式で高周波増幅→
再生検波→電力増幅・倍電圧整流の「高一ラジオ」の123号の2種類があります。122号が最小限の性能しかなくて、都市部でしか使い物にならなかったのに比べて、123号は性能が良くて、50万台以上生産されたそうです。

 123号は後に合理化と簡略化の為に、二度マイナーチェンジされていますが、今回修復した物は最初の型で、前面に曲面を使った優美なデザインと、「資材を最小限」と言っても、まだまだ品質本位で比較的贅沢に資材を使用した内部が特徴です。123号の詳しいデザインの違いは、下の「三種類の123号」欄をご覧下さい。この初期型タイプは、昭和15年〜17年に生産されていますが、今回のラジオは昭和16年叉は17年製だと思われます。

 今回修復したのは大阪のタイガー電機製で、ブランド名は「CONCERTONE」(コンサートン)です。「コンサートの音」と言う様なイメージのネーミングですが、タイガー電機は後に「戸根無線」と社名を変更していますので、経営者の名前「戸根」と「TONE(トーン)」を掛けて織り込んだ、巧みなネーミングです。戸根無線は大平洋戦争の終結まで生き残りましたが、戦後に過剰な設備投資で行き詰まって、高度成長時代を迎える前の昭和25年に倒産してしまいました。

 では詳しくご紹介します。ピンク色の部分は修復前、クリーム色の部分は修復中、水色の部分が修復後です。
 写真はクリックすると大きくなります。


123号初期型全景
0-01:123号初期型外観                    
 前面の上辺を丸く曲面処理し、スピーカーグリルの中央部にも曲線を配した、落ち着いた中にも飾り気のある、優美なデザインが特徴です。この上辺が丸い曲面処理のデザインは、松下やシャープなどが多く採用していた、当時の流行りのデザインです。キャビネットを作る際には手間が掛かりますが、全社共通のデザインと言うプロジェクトなので、なるべく人気の有りそうなデザインを取り入れたのだと思います。
 正面の3つのツマミは、真ん中が「同調(選局)」、左が「再生(正帰還量を調節して感度調整する)」、右が「音量」で、これを三角形に配置するのは、昭和10年代の標準的なデザインです。電源スイッチは123号当初の設計では、音量調整に「スイッチ付きボリウム」を使う予定でしたが、当時の日本の製造技術では不良品が多く、間もなく左の側面にスイッチだけ独立して取り付けられる様になりました。このラジオではスイッチはレバーを上下させる「トグルスイッチ」です。
 鉄の塊であるトランスを使っていないので、大きさの割に軽いラジオです。

123号全部
0-02:三種類の123号
 上から初期型、後期型、末期型です。この「初期・後期・末期」と言うのは、ここでの便宜的な呼び方で、正式な呼称ではありません。初期型は「正規型」、後期型は「臨時許容型」と言うのが、正式な呼称の様ですが、末期型については「角型」と言われてた様です。
 初期型→後期型では、内部は大幅に合理化・簡素化されましたが、デザイン的には、つまみの位置が内部に合わせて少し変更された程度です。
 後期型→末期型では、内部の変更はなく、キャビネットのデザインが製造し易い形になりました。相違点をまとめると下記の様になります。


初期型
後期型
末期型
キャビネット
上辺曲面形
上辺曲面形
直線的角形
つまみの配置
密集形三角形
解離形三角形
解離形三角形
同調つまみ位置
ダイヤル窓下
ダイヤル窓部分
ダイヤル窓部分
ダイヤル減速機構
円盤式反転形  
同軸式正転形 ※
同軸式正転形 ※
真空管シールド
筒形
帽子形
帽子形
コイルシールド
あり
なし 
なし 
検波コイル位置
シャーシ上
シャーシ下
シャーシ下
:減速機構が無く直結の製品もあるらしい
:2つのコイルをシャーシ上下に分けて配置すると、シャーシ自体で遮断されるのでシールドは不要

 製造数は後期型が一番多く、前期がそれに次ぎ、太平洋戦争の戦況悪化で末期型は僅かです。
 写真の製品は、前期型が今回のタイガー電機製、
後期型が日本蓄音器商会(コロムビア)製、末期型が早川電機(シャープ)製ですが、統一規格ですので、同じ時期では各社同じ物を製造しています。
 この様に積み上げているのは、写真を撮る為だけで、普段から積み上げている訳ではありません。



第1段階 入手時の状態
 オークションで入手した123号は、年数の割には良い状態でしたが、やはり70年以上昔の製品です。

123号初期型全景
1-01:入手時の外観
 置かれていた場所の条件が良かったらしく、塗装の色あせは少なく、大きなキズや破損は見当たりません。しかし擦ったり物がぶつかったりして出来る小さなキズは、多数ありました。スピーカーグリルの布(サランネット)も汚れてはいるものの、原形を留めていますし、ダイヤル窓も中が見える状態です。
 3つの操作つまみは、外れていますがちゃんと揃っていました。

123号内部
1-02:内部
 修復の為にシャーシは取り出した後の姿で、大きなスピーカーと側面のスイッチだけが残っています。

未着手シャーシ(前)
1-03:シャーシ(前から見る)
 初期型の特徴であるシールドケース群が目を引きます。2本にはコイルが、細い2本には真空管が入っています。右奥のケースの蓋は外して、横のケースの上に置かれてます。

123号シャーシ(球付き)
1-04:シャーシ(後ろから見る)
 シールドケースの大きさが目立ちます。タイガー電機製ラジオのシャーシの特徴である、浅くて脚のついたシャーシの構造が見えます。タイガー電機製の123号のシャーシは、統一規格とは少し違っていて、面積が少し大きいですし、真空管やコイルの配置も少し異なっています。当初は各メーカーに厳格に規格通りを求めていたのですが、次第にメーカーの効率や手持ち資材の活用等、融通性が優先される様になったと思われます。

123号シャーシ(球なし)
1-05:シャーシ(真空管取り外し)
 真空管と、ネジ留めされていない真空管シールドケースを外すと、タイガー製のシャーシのもう一つの特徴である、茶色い塗装がよく判ります。これも、規格では銀色ですが、たぶんタイガーでは茶色の塗料を大量に保有していて、それを使用した方が経済的だったのでしょう。
 このアングルから見ると、ダイヤル盤が目立って見えます。
 シャーシ左下のコーナーが斜めにカットされているのは、キャビネットに納めた時に、スピーカーにぶつかってしまうので、その為の「逃げ」です。

修復前シャーシ内
1-06:シャーシ内部
 シャーシ内は何度か修理の跡がありました。最も目立つ修理跡は、本来の紙箱電解コンデンサーが撤去され、交換品として、右端と中央に金属ケースの電解コンデンサーが取り付けられている点です。しかし取り付けネジ穴の向きが合わない為、細い針金だけで取り付けられていて、それが完全に外れてだらんと垂れ下がっている状態でした。上右の音量調整ボリウムも本来の値の物ではなく、一度交換されている様です。勿論これも錆びていて使える状態ではありません。他にも幾つかのコンデンサーや抵抗器が交換されています。
 度重なる交換の為か、それとも製造時の職工さんが未熟だった為か、このラジオの半田付けは余り上手くなく、半田が中まで届いていなかったり、外れてしまっている箇所がありました。恐らく何度修理してもすぐまた故障する「外れ」なラジオだったと思います。それでも所有者は、このラジオをかなり長く使っていた様です。

配線ラベル付け
1-07:解体と修復に備えてのラベル付け
 シャーシ内を写真と絵で記録した後、部品を全て取り外します。その際に、コイルからの引き出し線は、どれがどこに繋がっていたのかを、ラベルで印付けておかないと、後で苦労する事になります。部品店で売っている部品と違って、メーカー製品に使われている部品は、そのメーカーの人が組み立てる時にだけ判ればいいので、印や表記がありません。

第2段階 個々の部品の修復や復刻
 一旦完全に解体して、全ての部品や構造物を直したり、当時と同じ姿の物を復刻したりします。

123号キャビネット
2-01:キャビネットの補修                   
 キャビネットの状態は割と良いので、塗装はヨクナル号の時の様な全面塗り直しではなく、補修に留めます。
 かなりの箇所にわたる小さいキズは、家具用のクレヨン状の補修ペイントで塗って目立たなくし、その上から全体を、透明の水性つや有りニススプレーで塗りました。これでキズは大分目立たなくなり、塗装もツヤが出て、新しく塗った様な印象です。まだら模様に見えるのは、木漏れ日の陰です。
 塗装にはコメリで売っているカンペパピオのスプレーニス類を使っています。

シャーシ塗り直し
2-02:シャーシの塗り直し(表)
 タイガー製のシャーシは、前述の様に茶色く塗られています。錆びが出ている箇所もあるので、一旦塗装を剥がして、同じ様な茶色のスプレーで塗り直します。少し厚めに塗ったので、トランスレスの123号の欠点である、シャーシに触れただけで感電する事は、ほとんどなくなりました。
シャーシ塗り直し(裏)
2-03:シャーシの塗り直し(内側)
 表は個性的な茶色のタイガーのシャーシですが、内側は普通の銀色ですので、銀色に塗ります。これで70年前のラジオとは思えない程綺麗になりました。
 向う側が青く見えているのは光線の具合で、実際は全て銀色です。

シールドケース
2-04:シールドケースの塗装
 シールドケースは、鉄製の真空管用ケースの一部に、めっきが剥げて小さな錆が発生していましたので、銀色に塗りました。一方コイル用の方はアルミ製でしたので、錆の心配は無く、当初はそのまま使用するつもりでしたが、塗り直した真空管用と隣合わせになると、見た目に劣りましたので、後でこれも同じ様に銀色に塗りました。
 この真空管用シールドケースは、リング状の受け金と、本体、上部の蓋と言う3つの部分から成り、コストの掛かっている品です。後期型以降で使われている帽子形に比べると、たぶん数倍のコストと金属量だと思います。

ダイヤル機構
2-05:ダイヤル機構
 
ダイヤルのメカニズム機構です。これは前回のヨクナル号と全く同じ仕組で、操作つまみ軸の小さな円盤で、バリコン(チューニング用の部品)に繋がったプラスチック製の大きな円盤を回します。つまみ2回転でバリコンが半周回りますので、減速比は4:1と言う事になります。
 ダイヤル盤は黄色っぽいプラスチック製ですが、相当汚れが付着していて、洗剤で拭いてもなかなか落ちませんでした。写真では取り外していますが、当然中心の軸に指針が付きます。

ダイヤル機構2
2-06:ダイヤル機構の裏側
 
裏側はこうなっています。下の円盤は、2枚の金属円盤が上のプラスチック板を挟む形になっています。上円盤の軸の部分にバリコンの軸を接続します。下の操作軸は磨耗しているのか、ガタが大きいです。
 当然の事ですが、この仕組みだと、操作軸の回転方向とダイヤルの回転方向は逆になります。慣れれば問題ありませんが、ダイヤル軸に減速機構を採用して同軸にした、後期型の操作性の良さに比べると、感覚的に一段劣ります。

123号真空管
2-07:使用真空管
 123号ラジオは真空管を4本使った「4球ラジオ」ですが、それ以外に電圧調整用電球の「安定抵抗管」も使われているので、合計5本の球があります。左から高周波増幅用五極管12Y-V1(ジュウニワイブイワン)、再生検波用五極管12Y-R1(ジュウニワイアールワン)、電力増幅用五極管12Z-P1(ジュウニゼットピーワン)、両波倍電圧整流用双二極管24Z-K2(ニジュウヨンゼットケーツー)、そして安定抵抗管B-37(ビーサンジュウナナ)です。入手時には12Y-V1の所にも12Y-R1が装着されていました。これでも鳴らない事はありませんが、音量調整がほとんど出来ない(ボリウムを回しても全然音が大きくならず、ある点を過ぎるといきなり大音量になる)ので、手持ちのJRC諏訪無線製の新品12Y-V1と交換しました。
 残りの最初から装着されてた
12Y-R1はTVC東京真空管工業(後に東芝と合併)、12Z-P1がマツダ(東芝のブランド名)、24Z-K2がTVC、B-37がマツダ製です。代用で使われてた12Y-R1もマツダ製で、真空管トップメーカーの東芝系で統一されていました。どれも製造時の物ではなく、品質が向上した昭和20年代後半以降に製造された、品質優良な球です。これはこのラジオが20年代後半以降にも使われていた事を意味し、特に24Z-K2の頂部はかなり焼けているので、長く使われていた事が判ります。
 修復後に実際に稼動させてみますと、さすがに優良な品質の球ですので、感度が良くノイズも皆無で、非常に良好な動作をします。
真空管ソケット
2-08:真空管のソケットを交
 一般的に使われる真空管のソケットは、薄いベークライト板で作られたウェハー型(左)、黒いしっかりしたベークライトで作られたモールド型(中)、白い陶器で作られたステアタイト型(右)の3種類ですが、メーカー製のラジオに使われるのは、コストが安いウェハー型がほとんどです。
 この123号の5つのソケットの内、2つは破損していましたので、同じウェハー型の新しい物に交換しました。ちゃちなウェハー型は今ではほとんど見掛けなくなりましたので入手が難しく、高級なモールド型やステアタイト型より、かえって高くなっています。

スイッチ
2-09:スイッチ
 スイッチはレバーを上下させるトグルスイッチです。「くの字」型の1回巻バネ(トーションばね)が折れてしまって使えませんでしたが、同じ様な形の現行品が無い為、ピアノ線でバネを作って修理しました。キャビネットへの取り付けが横着な方法でしたので、最初の物が壊れて、修理屋が交換した物だと思います。

抵抗器
2-10:抵抗器
 抵抗器は14本の内7本が、値が変わってしまったり切れたりして使えませんでした。現在の抵抗器は小型化されて外形も異なった形(P型抵抗器)ですので、それをベークライトの筒に入れペイントを塗り、この頃と同じ形の物(L型抵抗器)を作りました。

コンデンサー
2-11:コンデンサー
 チューブラーコンデンサー(両端からリード線が出ているタイプ)は、ペーパーコンデンサーが9本全部がダメに、マイカコンデンサーも2本中1本が焼けていました。これも上述の抵抗器と同様、現在の物を使って当時の姿にします。
 ペーパーコンデンサーは、紙筒に入れてエポキシで両端を封じ、本物から剥がしたラベルをコピーして貼り、溶かしたロウを塗りました。マイカコンデンサーは、エポキシを四角く形取り、茶色く塗りました。

紙箱ケミコン
2-12:紙箱入りの集合電解コンデンサー
 この頃の特徴的ラジオ部品の代表格の、紙箱入りの電解コンデンサーです。200Vもの電圧が掛かる電解コンデンサーの中身を、段ボールで巻いて紙箱に入れただけの、現代の感覚からは考えられない危うさです。
 この123号の紙箱コンデンサーは、過去の修理の際に撤去されていましたので、今回は最初から作る必要がありました。紙箱は薄い段ボール紙で同じ寸法で作り、中に小型になった現在の電解コンデンサーを入れ、別のラジオに使われていたコンデンサーの紙箱をカラーコピーして貼り、古い感じを出しました。それに上述のペーパーコンデンサーの時と同様に、溶かしたロウを塗りました。
 左に写っているのは、ボリウムの延長軸です。そのまま使うとキャビネットの軸穴にぶつかってしまうので、だいぶ削りました。

スピーカー
2-13:スピーカー
 スピーカーは現代のダイナミックスピーカーではなく、マグネチックスピーカーです。これは高音も低音も出ませんが、人間の声の音域は効率よく再生しますので、ニュースやトーク番組は聴き取り易く適しています。フレームは鉄資源節約の為に、硫黄で固めた紙製で錆の心配は皆無です。
 当時のマグネチックスピーカーのコイルは、線材の品質の悪さからよく断線した様で、このスピーカーの赤いコイルも、断線して交換されたみたいで、他の部分より綺麗です。

 
スピーカーバッフル板
2-14:スピーカーバッフル板とサランネット
 スピーカーは直接キャビネットに取り付けるのではなく、バッフル板と呼ばれる板に取り付け、それをキャビネットに取り付ける方法です。サランネットは、元からの物が比較的良く残っていましたが、洗おうとしたらボロボロに崩壊してしまいましたので、いつもの織模様入りの金色の専用布に貼り替えました。この布はキャビネット側に貼り付けてもよいのですが、将来の補修の際に扱い易い様に、バッフル板の方に貼りました。
準備完了
2-15:部品の修復・復刻の完了
 これで個々の部品の修復や復刻が終りましたので、次からはいよいよ配線に取り掛かります。その前にシャーシに大物部品を載せての仮組を行ってみました。ここまで来ると、ラジオの完成時の姿が想像出来る様になります!

第3段階 配線
 電子部品の接続や配線などの、電気的な修復を行います。個々の部品を綺麗にして万全の状態にしていますので、70年前のラジオとは言え、新品のラジオを組み立てる様な快適な作業です。

部品の取り付け
3-01:部品の取り付け                  
 シャーシに全ての部品を取り付けます。真空管のソケットは、シールドケースのある球はビス留め、それ以外はリベット留めでしたが、リベット留めは専用の機械が無いと無理ですので、ハトメ留めにしました。メーカー製品はハトメ留めが多いです。5つの立型ラグ端子も元からの物です。トランスレス方式で感電の危険があるので、ネジを受ける脚には、プラスチック製の下駄が取り付けられています。
 この写真では、左端で既に一部の配線(緑色)が行われています。

シャーシ塗り直し
3-02:ヒーターとパイロットランプが点灯                
 配線は真空管のヒーターとパイロットランプのみを先に行い、それが終った時点で電源を入れてみます。ここで問題が無い事を確認しておけば、全ての配線が終って間違いの有無をチェックする際に、既に確認済みのヒーターとパイロットランプの部分は省けます。

配線作業
3-03:配線
 配線作業は、解体時に描き取った絵を元に実体図を描いて、それに従って進めます。そして配線や接続が一か所終る毎に、その実体図と回路図の両方をマーカーで塗りつぶしていきます。こうして間違いを防ぐ為に何重にもチェックを重ねながら、配線を進めます。
 配線はビニール線を使わず、錫めっき銅線に「エンパイアチューブ」と言うカラーの絶縁チューブを被せて行います。こうする事で、配線をきちっと縦横直角に這わせる事が出来て、見た目が良いですし、シャーシに密着させて配線が出来ますので、ノイズを拾い難くする効果も期待出来ます。

配線終了
3-04:シャーシ内の配線完了
 シャーシ内の配線が終った処です。配線や部品の配置は、基本的に元の配線と同じですが、縦横に整然と配置する事により、元より綺麗になりました。第1段階の「シャーシ内部」の写真と見比べてみて下さい。
 配線の色分けは、JISの5色色別法に因ってますが、赤青黄黒白の色分けに対して、エンパイアチューブは赤緑黄黒の色しかありません。青の代りに緑を使い、白は黄色を白く塗りました。但し紙箱コンデンサーの引出し線は、区別をつける為に、色別法とは別になっています。
 中央部やや右下の黒い菱形マークのコンデンサー(右赤帯・左黒帯の物)は、追加した10
μFの電源ケミコンで、本来なら紙箱の中に収めるべき物ですが、この段階では最早不可能ですので、ペーパーコンデンサーと同じ様な形に作りました。
上から見る
3-05:上から見たところ
 
シャーシの上の様子です。バリコン(ダイヤルに繋がっている中央の四角い部品)⇔コイル⇔真空管の接続の様子が見えます。コイル⇔真空管の電線と、中央のコイル(検波コイル)の上部に在る抵抗器とコンデンサーは、全く元のままです。この検波コイルとその右の真空管(検波管)を繋いでる電線は、このラジオの中で最もノイズを拾い易い部分で、1mmでも短い方がいいです。ここでは2つのシールドケースの中が殆どで、露出しているのは2cm程に留まっていて、部品配置が上手い設計です。
 パイロットランプへのケーブルは、交流ノイズ(ハム)をまき散らさない様に、シールド線を使い、違和感の無い様にベージュ色に塗ってます。

テスト中
3-06:テスト中
 
配線が全て終ったら、間違いが無いか慎重にチェックした後、通電します。放送が聞こえたら、バリコン付属のトリマーで調整を行います。手前側(同調側)でダイヤル位置と放送局が合う様にし、奥側で最良の感度になる様に合わせますが、低い周波数と高い周波数で合うポイントが異なったりするので、なかなか一発では合いません。ここ京都では「神戸のラジオ関西(558kHz)と大阪のラジオ大阪(1314)が十分に受信出来る事」「地元の強力なKBS京都(1143)と、それに周波数の近い毎日放送(1179)が、きっちり分離して聞こえる事」を、調整の目安にしています。
 この写真で、スピーカーのコーン紙が破れていて、紙を貼って補修した様子が判ると思います。


裏から
3-07:キャビネットに収める
 
シャーシをキャビネットに収めました。スピーカーやスイッチへの線は、柔らかさが必要ですので、ビニール線を使っていますが、これにベージュに塗ったガラス繊維チューブを被せて、昔の布巻線っぽくしてあります。
完成
3-08:ラジオの機能が完成
 
これで機能的な修復は終りました
回路図
3-09:回路図
 
キャビネットの底に貼られてた回路図です。昔の回路図の書き方は今と慣習が異なっていて、今の目で見るととても見辛い物も多いのですが、この回路図は現代とほとんど同じ書き方で、異なるのは、真空管のヒーターの記号「∧」形が、ここでは「∩」形になっている点だけです。このままでも十分実用になりますので、印刷が潰れて読み難い部分を赤文字で修正しておきました。
 実際の修復でも、これとシャープの123号修復時の現代版を併用して進めました。回路の説明については、シャープ製123号のページと重複するので省きます。
 右下の電源部のケミコン6μFは、当初10
μFにして紙箱に仕込みましたが、それでも「ブーン」というハム音が残りましたので、10μFを追加して20μFとしました。これでハム音は無くなりました。

第4段階 仕上げと細かい点のご紹介
 ラジオとしての機能は完全に修復できました。後は細かい点の仕上げとご紹介です

つまみ
4-01:つまみの修復
 
3つの操作つまみの内の1つは、サイズが少し大きく色も形も微妙に異なっているので、後に交換された物の様でした。よく見ると材質も異なっていて、重くて硬い白い物質製で、それを茶色に塗った物でした。剥げている箇所もあったので、塗り直す事にしました。
 古い塗装を完全に剥がすと、何とこれは白い石製でした。もしかしたら碁石のメーカーとかが、加工したのかも知れません。黒い斑は、塗料が石の組織の細かい隙間に入り込んだらしく、いくら紙やすりで擦っても、これ以上は取れませんでした。

つまみ前面
4-02:つまみの完成
 
上記の白い石製のつまみを茶色く塗り、真ん中の同調(選局)軸に挿入しました。完全に同じ色のペイントが無かったので、他の2つと少し色が異なっていますが、実際は写真程の違いはありません。ミルクチョコレート色と、ブラックチョコレート色の様な色あいです。同じ色合いのペイントが手に入れば、塗り直したいと思います。キャビネットに擦ってキズが付かない様に、底面にはフェルト布を貼ってます。
 つまみは普通は小さなネジで留めますが、軸にまで電気が来ているトランスレス方式の123号では、万一にもそのネジに指が触れない様に、軸穴に板バネを装着して、バネの圧力で留める様に工夫されています。

文字
4-03:機能表記文字
 銘板3つのつまみの下には、それぞれ左:「再生」(感度調整)、中:「同調」(選局)、右:「音量」と、金色のレタリングで表記されていますが、「同調」はほとんど消えてしまい、「音量」も金色が褪せて黒くなっています。
 

ダイヤル盤
4-04:ダイヤル盤
 ダイヤル盤は当時のラジオの定番の黄色っぽいプラスチック板で、裏から豆電球1灯で照らす透過式です。後期形と末期形には「放送局型第123号受信機」と表記されていますが、これには何も書かれてなく、100分割目盛りと「同調」とだけ書かれた、素っ気無いダイヤル盤です。
 盤面はかなり汚れていて洗剤でも落ちませんでしたが、カッターの刃で汚れを削ぎ落して、ご覧の様にとても綺麗になりました。
 残っていた豆電球は切れていませんでしたが、電圧が違う物の様でとても暗かったので、3V130mAの物を装着しました(写真は電源OFF時なので点灯していません) 本来の豆電球の規格は3V100mAですが、この規格の豆電球の入手は現在ではほぼ不可能です。

注意書き 4-05:注意書き
 123号は通電中に金属部分に触れると感電してしまいますので、その注意書きです。これは本来なら裏蓋の表側に貼るべきで、そうした製品もあった様ですが、ここでは中のシャーシ右の部分に貼られています。
スピーカー留めネジ
4-06:前面のスピーカー留めネジ頭
 スピーカーの留めネジの頭は、キャビネットの前面に露出しています。こういう物は本来なら表に見えない様に、裏側から木ネジで留めるべきですが、キャビネットの板材が薄いので、こういう形になったのでしょう。普通のネジではなく、頭が模様になった「飾りネジ」が使われています。
スイッチ部分
4-07:電源スイッチ
 電源スイッチは左側面にあります。ON・OFFの表記(当時は日本語で「点・滅」)が無いので、横に所有者が記入したのか、●と■の印があります。
 左下の青い印は、放送協会(NHK)の証紙です。

裏蓋
4-08:裏蓋
 裏蓋は失われていましたので、ネットでタイガー123号の写真を見付け、その写真から放熱スリット穴の寸法を割り出して、ベニア板で作りました。スリット位置や形は、結果的に既に持っている後期型や末期型の2台の物と、同じ物になりましたが、メーカーや時期によっては、全然違う形のスリットの蓋の製品もある様です。
銘板
4-09:銘板
 裏蓋が失われていましたので、当然それに付いている銘板も無く、同様にネットの写真から作りました。写真が若干上方から撮られていて、下の方が少し幅が狭くなっていますが、手持ちのフォトショップが古いバージョンで修正が出来なかったので、そのままプリントした物を薄いアルミ板に貼って、「それらしく」作りました。
電源プラグ
4-10:電源プラグ
 電源プラグとコードは、当時と同じ丸形プラグと袋打ちコードです。プラグは元からの物ですが、70年前にしては綺麗過ぎるので、比較的最近(と言っても昭和30年代?)に交換された物だと思います。コードも使おうと思えば使えない事もない状態でしたが、だいぶ汚れていたので、新たに買った新しい袋打ちコードに交換しました。黒い袋打ちコードは、近年になって遂に製造中止になってしまいましたが、10mの買い置きがありますので、当分大丈夫です。
 一緒に写っている白い細いコードはアンテナ線で、これを部屋の高い所に張らないと聞こえないのですが、この123号は感度良好で、地元局ならこのアンテナ線を束ねたままでも十分聞こえます。

検査証
4-11:検査証
 メーカーの検査証です。今と全く同じで、検査員の印鑑が押されています。これこそ日本のメーカーの衿持ちで、「QC」と書かれた紙切れが入っているだけの某国製品とは、大きな違いです!
 銘板は失われていましたが、ここに「タイガー電機株式会社」と言う社名と、「Concertone Radio」と言うブランド名が残っていました。
 機構検査をした大平さん、電気検査をした濱中さん、感度検査の印は薄くて読めませんが、総合確認の菊地さん・・ もし御存命なら90歳を超えていらっしゃると思います。皆さんの作ったラジオ、現役復帰して、元気に鳴っていますよーー!

名前
4-12:野村さん?
 スイッチとは反対側の右側面に、所有者でしょうか?それとも寄贈者でしょうか?名前が墨書されています。右はちょっと判読出来ませんが、左は「野村」と書かれている様に思えます。「野村さーん、ラジオ直りましたよ。取りに来て下さーい(*^-^*) 」
大公開
4-13:大公開?
 キャビネットの中に貼られてた新聞紙の切れ端です。何年何月か判りませんが、12日に何かが「大公開」される様です(笑) その下をよく見ると「独逸国防軍司令部指揮製作○ウフア」と、尻餅をついてる人物らしい絵が見えます。軍事物なのか、それともコメディなのか・・ 映画の広告の様です。
タイガー123号の動画
4-14:放送を受信中のタイガー123号の動画です。(You Tube)
トーク


 これでこのタイガー電機製123号のご紹介は終りです。
 123号は回路は十分な研究と経験が積まれて磨きが掛かり、性能的には、感度・音質・使い勝手共、完成の域に達しています。末期のシャープ製ではバリコンの作りの甘さに悩まされましたが、この初期型ではそういう問題もなく、想像以上の高性能なラジオでした。ただ、部品の耐久性に問題があった様で、製造当初は良くても購入後日時が経過すると、あちこち故障が頻発した様です。これは123号に限らず、それが当時の日本の国力で製造出来る、精一杯の限界だったのだと見るべきと思います。紙箱に入った電解コンデンサーや、活電部がむき出しの電源スイッチ、二点でしか留めてないスピーカー等々、現代の製品に比べるとあらゆる箇所で余裕がなく、ギリギリのレベルで作られている印象です。頭脳と技術を結集して作る試作や一点物では、最高レベルの物が作れても、量産するとなると、裾野の技術力や国力の乏しさが出てしまうのだと思います。

 
ご質問や更なる詳細をお知りになりたい場合は、下記本サイト「雪乃町公園」の掲示板にお書き込み下さいませ。

(管理人「うつりぎ ゆき」)

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